WD2016


「木葉、今日が何月何日かわかる?」
「3月14日」
「じゃあ、わかってるよね?」
「わかってないとは言わせないけどねぇ」
「わかってんよ! つうか怖ぇよ! ほらよ!」

朝一番にマシンガンのごとく言葉を並べ立て、強襲とばかりにやってきた雀田と白福に、昨日なけなしの小遣いで買ってきたマシュマロを手渡すと二人はなんとも微妙な表情で受け取る。
なんでだよ! これがほしかったんじゃないのかよ!

「なんだ、ちゃんと用意してたか」
「つまんないの」
「えっ!? なに、俺用意しなくてよかったのかよ」

予想外の展開に目を丸くするけれど、そこはこいつらだった。そんな人生甘くはなかった。

「用意してなかったらこれから買いに行かせる予定だったのに」
「そうそう、財布の中身と等価交換」
「男側が失うもの大きすぎね!?」

財布の中身と等価交換!? 鬼か! 悪魔か! それこそ持っていかれたじゃねぇか! ……って言っても今の所持金、千円もないんだけど。
雀田と白福は俺が渡したマシュマロと俺とを見て、一つため息を吐きだした。

「乙女が作ったチョコを貰っといてお返しがこんだけとは……」
「赤葦はちゃんと小洒落たお菓子セットをくれたのになぁ」

赤葦の野郎何やってくれちゃってんだ! そんなちゃんとしたものやったら俺のマシュマロが霞んじゃうじゃねぇか!

「あんな律儀野郎と俺のマシュマロを比べんな! 要は気持ちの問題だろ!?」
「え……」
「…………」
「絶句すんな!」

普通に失礼だろ!

「ていうか、赤葦! あいつ、やっちゃんからチョコ貰ったんだろ? ちゃんとお返ししたのか?」
「してたよ」
「うん。しかももの凄いやつ」

二人して遠い目をして語るものだから、その凄まじさは他の追随を許さないものなのだろう、ということは容易に想像できる。まあ、バレンタインの時にあれだけ落ち込んでいた奴が大本命から――雀田と白福の助力があったとはいえ――チョコを貰ったのだから相当嬉しかったんだろう。

「諭吉と等価交換してた」
「そうだね。ホワイトデーで諭吉召喚する人間がいるとは思わなかったよ」
「アイツどんだけ本気なんだよ!」

いくら合宿くらいしか会う機会が無いからって諭吉!? 重いわ! 本気度合が結婚を前提にっていうレベルじゃねえか!

「でも諭吉を召喚するだけあってすごく綺麗で可愛かったよ」
「そうだねぇ。あれはきっとやっちゃん喜ぶねぇ」
「そんなに凄いのか?」
「少なくともこんなショボイもんじゃなかった」
「だねぇ」

手の内のマシュマロを遊ばせながら二人は再び俺を見やる。
お前ら俺をいじめて楽しいか! 泣くぞ!?

「今日必着で出してたから、きっとやっちゃんが帰ったらビックリして電話来ると思うよ」
「そんな凄いのか」
「これ」

そう言って差し出された携帯電話の画面には凄いものが映し出されていた。これ、前にテレビで見たどっかの結婚式場とか豪邸とかで見たことあるようなやつじゃね?

「え? マジ?」
「マジ」
「赤葦の本気具合がわかるよねぇ」

本気すぎて怖い。
そろそろ花束持ってプロポーズ行くんじゃねえの。
そもそも付き合ってもいないし告白すらもしてないだろ!
なんだか涙が出てくる。この敗北感にも似た感情は何なんだ。

「夜が楽しみだねぇ」

完全他人事モードのその言葉が妙に楽しそうだったのは気のせいだろう。

(仁花に凄いものが届いてるわよ)
(凄いも、の!? えっ、ちょっと待って、誰から!?)
(雀田さん(赤葦さん)ですって。あんたバレンタインに何あげたらこんな立派なプリザーブドフラワーもらえるの)
(ひぃ! 分不相応にも程がある!! 赤葦さーん!)

(届いたかな、お返し)

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