VD2016


「あれー? 赤葦今日は元気ないな! もしかして昨日やっちゃんにチョコ貰えなくていじけてんのか?」

ほんの冗談のつもりだった。
いつもクールな顔をしてそっけない態度を取っている赤葦が珍しく落ち込んでいる様子だったからちょっとからかってやろうと思ってのことだったのに。

「…………木葉さんはいつからやっちゃんなんて親しげに呼ぶようになったんですか。俺だってまださん付けなのに」
「顔怖ぇよ」

突っ込むところそこかよ! 不機嫌さを隠そうともしてないし俺に八つ当たりすんな! 目がマジだし相当落ち込んでるっていうのはわかったから!
ていうか普通に考えてここまでもらえると確信してる男も珍しいと言うか、冷静に考えてもそこまでお前とやっちゃん仲良くなくね?
少なくともお前がやっちゃんを好きなのはわかってるけど、やっちゃんがお前を好きだと感じさせる雰囲気は微塵もないぞ?
だからそんな必要以上に落ち込むのは違う気がするし、気にすんなよと言いたいけれど言ったら言ったで絶対後で面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだからここはあえて黙っていようと心に誓った。



「聞いたよー赤葦。あんた、やっちゃんにチョコ貰えなくていじけてるらしいね」
「……そんなことはないですけど」

勤めて冷静に返しながら今日はやけに絡まれると思ったらそれかと心の内でため息を吐きだす。
木葉さんに続き雀田先輩と白福先輩もどこか楽しげな笑みを作っているものだからどれだけ俺のことをからかいがいのある人間だと思っているのだか否でもわかってしまう。

「そんな赤葦にサプライズプレゼント」
「お礼はお菓子一ヶ月分でいいよー」

そう言って二人から手渡された小包。両手に乗る程のそれを不審に思いながらも受け取る。
なんだこれ?
貼られていた宛名伝票を見て先輩たちに平伏しそうになる。そこには可愛らしい字で雀田先輩の住所と名前気付、赤葦京治様とあって、差出人の欄を見て緩む頬を下唇を噛んで誤魔化す。……これ、夢じゃないよな?

「赤葦、顔にやけすぎー」
「そんなにやっちゃんからのチョコが嬉しかった?」

そんな先輩方の声すら耳に入らない。
もう一度確認したい。これ、夢じゃないよな?

「そしてここに!」
「通話中の携帯電話が1つ!」

コントみたいなやり取りについていけず目を白黒とさせている内に無理やり押し付けられた携帯電話を耳に当てろと促される。
もしや、と思って踵を返す。
これ以上こんな顔見せたら後で何を言われるか想像もつかない。まあ、今の段階でもかなりのもんだけど。

「もしもし」
「あっ、こっ、こんにちは!」
「谷地さんスか?」

電話口は想像通りの相手。確認と、一度心を落ち着ける為に分かりきったことを言葉にする。

「はっ、はい!谷地さんス……じゃなくてや、谷地です仁花です!」

電話口の谷地さんはいつも以上に慌てていて、ああ俺のよく知る谷地さんだ、と心の中で密かに笑う。

「無事に届きましたでしょうか

何が、とは言わない。それは言葉にして言わなくてもわかっているだろうという想いと恥ずかしさからくるものなのだろうか。

「届いたよ、ありがとう」
「よかったです!雀田先輩と白福先輩から赤葦さんへチョコを送って欲しいと頼まれたのですが、私如きの物だなんて正直なところご迷惑にしかならないと言ったのですがどうしても、と押し切られまして……」

ああ、その光景も目に浮かぶ。あの二人相手では、まあ勝ち目なんてないだろうけど。

「谷地さんは押しに弱いんスね」
「あっ、はい、いいえ、あっえっと……」
「谷地さんから貰えてすごく嬉しい。ありがとう。ホワイトデーは期待してて」

義理とか先輩に言われたからとかそんなもの忘れてしまって、今だけは勘違いしてもいいかな。
届かない想いを呑み込んで、誰も見ていないのに笑みで隠す。

「密かに期待させていただきます!」
「別に密かにじゃなくてもいいけど」
「いえいえ!私如きが赤葦さんからお返しを頂くなどファンの方に東京湾に沈められるレベルの暴挙ですので!」

なので、密かにお待ちしてますね。
小さな声でそう締めて、終話の挨拶をして通話が終わる。
たった五分も話してないのに、いつの間にか俺の顔はゆでダコのように真っ赤になっていた。
それを見た先輩二人から後々までいじられ続けたけれど、それすら呑み込んでも暫くは頭が上がらなさそうだ。
お菓子一か月分、献上させていただきます。

(待ってますね、がこんなにも嬉しい)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -