視線を合わせて


「あ……」
「あ?」

背中にかけられた声に振り返れば、煮え切らない表情を浮かべた園原と視線がかち合う。
あまりはっきりとものを言う性格ではないからか、どうにも次の言葉が見つからないようだ。
それでも俺が振り返ってしまったからなのか、意を決して、それこそ重大発表でもするような緊張を孕んだ強い視線に変わる。
それならば俺がこんな中途半端な体勢ではいけない。彼女の方に体を向け、きちんとその小さな身体を視界に収める。
さあ、こい。
何を話すのか皆目見当もつかないが感じ取れる雰囲気は只事ではないというのはわかった。

「あの」
「なんだ?」
「頭に葉っぱが……」

ん? 葉っぱ?
一瞬何を言われたのかわからなくて首を傾げれば、屈んでくださいと小さな指示が飛ぶ。
言われた通りに膝を折って園原の視線に合わせると、おずおずと伸ばされた手が俺の髪へと伸びる。

「取れました」
「ありがとな」
「あ、いえ……」

途切れる会話。
それを合図に姿勢を戻し、彼女の旋毛が視界に入る。肩にも届かない小柄で華奢な体ーーと言ってもそれは俺の方にタッパがあるからだけど、この立ち位置になるたびに俺との身長差、体格差を感じる。

「えっと、あの……」

動かぬ巨体に戸惑ったのか、どうしたらいいのかわからないという思いがひしひしと伝わってくる声色だった。
一言詫びて踵を返す。
首だけ後ろにやって「行くか?」と問えば、小さな了承の声が返ってきた。

「それにしても新羅は俺らに何の用なんだろうな」
「何なんでしょうね。詳しいことは一切聞かされずに、今日のお昼に新羅さんのお家に集合だなんて」
「まあ、あいつのことだからまた意味わかんねぇことでもやるのかもな」

少なくとも園原を誘っているのだから危ないことはしないと願いたいところだが、結果的に危ないことになるという可能性は捨てきれない。どころか、それこそが最有力候補だ。
今日こそは平穏無事に昼食を終えたいと心の隅で呟いて止めていた歩みを再開させた。


(やあやあよく来たね! 今日は僕とセルティが初めて手を繋いだ記念日なんだよ!)
(帰っていいか)


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本当はなおちゃんのお誕生日にプレゼントしようと思って書きはじめて自分で没にしたもの。
読み返してみたら全然お誕生日のお祝いになっていない上に書きはじめたのがお誕生日当日っていう暴挙も相まってここで供養。

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