師走五日午前七時四十五分


どうにも朝から様子がおかしい。朝、部室のドアを開けた時も、体育館で準備している時も、朝練が始まった今も。全体的に雰囲気がざわついている。
常日頃チームメイトの表情や様子を見てきたからか、この頃は小さな変化にも気付けるようになった。といっても今日のこの雰囲気はそんなもの気付けなくてもわかるほどわかりやすいものだけれど。わかりやすい雰囲気だからこそ、その中に自分が入っていない疎外感も同時に味わうこととなる。
これが世に言ういじめというやつなのだろうか――いや、それはさすがに考え過ぎだろう。なんというか、そういう雰囲気ではない……気がする。確かに疎外感はあるけれど、それが悪意のないものだとちゃんと感じている。
しかし正体の掴めない雰囲気はどうにも居心地が悪いのも事実だ。どう尋ねたらいいものかと思案している間にその状況は作りだされていた。
どうにも自分に視線が集まっている――と顔を上げたその時だった。
パチンと打ち鳴らされた手。突然のことに驚いてそちらに視線を移せば、木兎さんがにやりと表情を作る。
あ、と思ったのもつかの間。木兎さんの合図でぐるりと周囲をとり囲まれ、目を瞬かせている間にその陣形は既に出来上がっていた。分かりやすく言うなら部員全員で円陣を組み、その真ん中に俺がいる――という何とも不可解極まりない状況だ。
今までの人生で円陣の中に入るなんて経験がないからか、どうしたらいいか戸惑う。戸惑っている間にも状況は常に変わっていく。

「せーの!」

これでもかというほどの大音量。
思わず耳を塞ぎたくなるようなその後に届けられた言葉。

「赤葦! 誕生日おめでとう!」
「「おめでとう!」」

呆然とする俺に、木兎さんは何かを求めるような視線を向ける。数秒して、何を言えばいいかを漸く悟る。

「あ、ありがとうございます」
「へいへいへーい! 反応遅いぞ赤葦!」

そんなことを言われても予期せぬ出来事に頭がついていっていないのだから仕方がない。
それでも精一杯の笑顔をとってつけたように貼りつける。こんなのでも笑わないよりましだろう、と思ってのことだったのに、その場にいた全員が目を見開いて一斉に部室へと舞い戻る始末。一人残された俺は未だ温まらない体育館で静かに笑った。
そして、その日の朝練が“赤葦が初めて笑顔になったよ撮影会”になるまで――残り数秒。



(赤葦! 笑って! こっち向いて!)
(俺は幼子ですか)


――Happy Birthday,Keiji Akaashi!!

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