この糸の先に、


「赤葦!」

クラスメイトの異様とも言えるテンションの高い呼びかけに、赤葦は視線を上げそちらに顔を向ける。一体何事かと構えればスマートフォンの画面を差し出され、そこに映し出されている人物を見るように促される。赤葦は内心ため息を吐き出しながらも、ここで断れば後が面倒であることはわかっていた為、仕方なく差し出されたスマートフォンを受け取って画面を視界に入れる。
そこに映っていたのは、肩口のあたりで切りそろえられた黒髪に屈託のない笑顔の女の子。今どきの女子高生にしては珍しく化粧っ気のない、ぱっと見た感じの印象では垢抜けない子といった感じだ。
髪の色こそ違うけれど、見た感じの印象だと谷地さんに似てるなぁ、なんて頭の隅で考えながら赤葦はスマートフォンを返す。

「で、この人が何?」
「可愛いよな!」
「まあ……」

確かに顔の造形や印象は可愛いと言える部類に入る方だとは思う。見た限りでは悪い印象は持たない。それでも。
……谷地さんの方が絶対可愛い。
赤葦が想いを寄せる、遠い地の高校でバレー部のマネージャーをしている少女と比べてしまうとその可愛さも霞んでしまうというところだった。
いつの間にか思考があらぬ方向へ飛んでしまった。それを振り払うかのように一度目を瞑り考えをリセットし、クラスメイトの返答を待つ。

「俺この子とSNSで知り合ったんだけど、音楽も食い物も読む本も好き嫌いがバッチリ合っちゃってさ!」
「へー」
「もう運命なんじゃね? みたいな! 俺とこの子は絶対赤い糸で結ばれてるんだよ!」

先ほどにも増してテンション高くロマンチックなことを正面切って言われ、赤葦は曖昧な返事しかできない。十七歳にもなって運命の赤い糸だなんて言葉を聞くとは思ってもみなかった。というよりこれまで生きてきた人生の中で初めて口にする人間を見たという方が正しいし、それを言っているのが目の前に座る同い年の男だというのだから困惑も一入だった。夢見がちな少女が口にするのと、見るからにガタイのいいクラスメイトが口にするのとでは言葉の印象は雲泥の差だ。
今日二度目のため息を吐き出して、それから赤葦は自らの右小指に視線をやる。
運命の赤い糸、ね。
クラスメイトの言につられるわけではないけれど、でももし視線の先にある指にそんなものが結びついているとしてその先は一体誰に繋がっているのだろう、と赤葦はぼんやりと考える。
目に見えない糸の先は――谷地さんだといいな。
つい今しがたクラスメイトに困惑したばかりだし、女々しいと言われるかもしれないけれど、心の中には先ほど思い浮かべた少女。自分よりも三十センチ小さい小柄な体。闇に光る星々と同じ髪飾りが映える綺麗な金色の髪。いつもおどおどしていて危なっかしいけれど、笑顔は花のように可憐で可愛らしく一度それに魅せられてしまっては決して忘れられない。
梟谷学園のバレー部マネージャーにああいったタイプの女子はいない。いないから余計意識を向けてしまったのか、何かやらかすのではないかと危なっかしくて見ていたのか。
意識的にその姿を追っているうちに無意識に目で追うようになり……いつの間にか赤葦の心の大半を谷地が占めるようになっていた。
注視から好意に変わった明確なきっかけはわからない。わからないけれど気付けば好きになっていた。恋に落ちたと人は言うけれど、正しくその通りだった。

「聞いてるのかよ、赤葦!」

その声で意識を切り替える。聞いてるよ、と返して赤葦は小指から視線を外す。
谷地さん、元気かなぁ。
赤葦は日差しの厳しい窓の外を見やる。今日も忙しなく動き回っているであろう、遠い地の想い人を思って。



(君の小指に俺から延びる赤い糸が繋がっていますように)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -