足跡一つ
どこかの風の噂で流れてきた話。
出夢がどこかの橙色した奴に倒された、と。
プロのプレイヤーが倒された――殺された、と。
それを聞いてぽかんと胸に穴が開いたような気分になったなんて感傷的なことは言わない。もともとあいつとは仲違いしたんだしな。
それでも。
それでもなんとなく、寂しくないと言ったら嘘になるし悲しくないと言ったら嘘になる。
知ってる奴、だなんて簡単な言葉で済ませられるような関係でなかったから。俺と出夢は家族のような恋人のような、何て言ったらいいかわからない変な関係、というのが的確なのだろうか。
あの日、あの教室での壮絶な殺し合いの時から俺たちの仲は切れてしまったけれど、それでも、やっぱり、この世からいなくなってしまったという事実はどうにもできない感情が渦巻いてしまう。
「あー……ったくよ」
頭を無遠慮にガシガシと掻いて、満月が昇る空を見上げる。
なんでこう夜になるとセンチメンタルな感じになっちまうんだよ。
俺は女子かよ。
こんなの、伊織ちゃんあたりにやってもらいたい役回りだっつの。
――いや、あの子は泣かないか。それにこんなセンチメンタルな気分になることもないんだろう。
心の中で何を思っているかはわからないけど、表には決して出さないんだもんな。
そういえば何も言わずに逃げてきたけど今頃必死になって探してんのかな。
まあ当分は一人旅を楽しませてもらうつもりだけど。
「さーってと。ぶらぶら観光でもすっかな」
頭の後ろで手を組んで満月が昇る空を見上げながら、名も知らぬ土地に足跡を残した。
(ついこの間まで、隣に居るのが当たり前、だったんだけどなあ)