雨はすべてを消してしまうから、


雨は、嫌いです。
何もかもを流して、きれいにして、なかったことにしてしまいそうだから。
せっかく見つけた人識くんの痕跡を、無くしてしまいそうになるから。

「もう、どこに行っちゃったんですかねえ人識くんは。かわいいかわいい妹が探しているっていうのに」

独り言さえ雨は綺麗に呑みこんでくれる。
良いことも嫌なことも全部、全部。都合のいいことも悪いことも。
傘をさしているというのに横殴りの雨がスカートを濡らしていく。
もう意味を持たないそれを持っていても仕方がない気がするから、いっそのこと捨ててしまおうかとも思ったけれど、これ以上悪目立ちをするのもよくないですねえ。
ただでさえ両手の義手で変に目立ってしまっているというのに。
元来目立つことが苦手だから本当ならこの義手もない方がいいのだけど、ないとないでまた目立つ。
奇異な目で見られるだろう。同情されるかもしれない。憐憫の視線を向けられるかも。
それもそれで面倒だし、それにこの義手は人識くんが体を張ってもらってきてくれたもの。おいそれと外したりしたくないし、それこそ人識くんの形見と言っても差支えないのかもしれない。――まだ死んだわけではないと思いますけどね。

「ひっとしきくーん。どこですかぁ」

けだるげな声をあげれば周りの人間は何事かとこちらに顔を向けてくる。
でも自分に関係のないことだと知るとすぐさま興味をほかのところに移す。
冷たい現代人ですねぇ。いや、都会人ですね?
まあいいですよ。ここにいる人たち、みんな人識くんの居場所なんて知らないでしょうしね。

「これで海外とかに行ってたらどうしましょうねぇ。わたしパスポートって持ってましたっけ……? ああ、でもあったとしても実家だからもう処分されちゃってますね」

困りましたね……。
そもそもわたしって戸籍はどうなってるんだろう。行方不明者扱いとされているのかな。
それとも、もう死んだ人間として扱われているのでしょうかね。
どちらにしてもたぶん無桐伊織として公の身分証明は取れそうにないだろうから、パスポートは偽造してもらわないとだめなのかな。
大きくため息を吐き出す。
わたしはまだ零崎になったばかりの身の上だし、裏の世界に知り合いがいるはずもない。
いざとなったら双識お兄ちゃんの名前を出しますかねぇ。曲識さんの方がいいでしょうかね。

「もう、人識くん。せめてどこに行くかくらい言ってくれればよかったのに」

それじゃわたしから逃走する意味がないだろう、なんて言われるかもしれないですが。
それでも、人識くん。あなたはわたしの唯一の家族なのですよ。
未だ生き残る、わたしの最後の家族なのですよ。
だから、早く会いたいですよ。
人識くん。――人識、お兄ちゃん。



(へっくし! 誰か噂してやがんのか?)

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