「佐弥子姉ちゃん」


真っ白な世界。
右を見ても左を見ても上も、下も見渡す限りの真っ白な世界だった。どこかで見たことがあるような、でも見たことないような、不思議な世界。ふわふわと浮遊している感覚がどうにも落ち着かない。
大きく息を吸い込んで、吐き出す。立っていることがつらいわけではないけれど、どこか居心地が悪くて座ろうと膝を折ったその時だった。
「誓太、くん?」
背中に声がかかる。
聞き覚えのある、優しい声。
恐る恐る振り返れば、そこに居たのは――五年前、悲しい別れをして以来一度も会ったことのない――紛れもないあの人の姿があった。忘れはしない……忘れるもんか。
「佐弥子姉ちゃん」
「わあ、やっぱり誓太くんだ! 大きくなったね」
自分よりも背の高い僕の頭を撫でようと、目の前の佐弥子姉ちゃんは背伸びをして手を伸ばす。その行動が五年という年数を思い起こさせる。
そういえば昔は佐弥子姉ちゃんの方が大きかったんだよなあ……。彼女の胸のあたりくらいまでしか身長なかったし。だから、僕を助けてくれたその背中がとても大きく見えた。護ってくれたその背中が頼もしく見えた。だけど今こうして面と向かって話してみると普通の女の子であることがありありとわかる。あの時の僕は彼女に助けられてばかりで、どれだけの負担となっていたのだろう。胸がぎゅっと締め付けられて、伸ばされた彼女の手を取って優しく包みこむ。
「えっ、わっ、ど、どうしたの?」
「佐弥子姉ちゃん……ごめんね。ありがとう」
どうして僕が謝っているのかよくわかっていないらしく、佐弥子姉ちゃんは首を傾げているばかりだ。少しだけ強く握りしめて、そして放す。
「僕、話したいことたくさんあるんだ」
「奇遇だね。私も誓太くんと話したいことたくさんあるんだ」
揃って笑って、どちらからともなく口を開く。僕たちは永遠の時の中で互いに語り合った。

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