「それでも嬉しいよ」


「雪葉」
これやるよ、と少し気まずそうに右手に持った小さな紙袋を差し出される。
いったい何なのだろう。黙ってそれを見つめていれば、早く受け取れとばかりの視線を送られる。
やるよ、という言葉から何か物が入っていることは窺えるけれど、中身が何なのかさっぱりわからない。とりあえず受け取ってその中を覗き込む。そこには白と紫の花びらがとても印象的な綺麗な花の鉢植えが入れてあった。
あまり見たことがない花のようだけど、これはなんて名前の花なんだろう。
「徹、これどうしたの?」
花から視線を上げれば、徹はどこか居心地の悪そうな顔をして視線をあちらこちらに飛ばしている。なに、どうしたの。
「あ、いや、近所の花屋さんがくれたんだけど、俺が貰っても仕方ねえし……雪葉がいるんならやるよ」
いらないならほかの誰かにやってくれ、と最後の方は声が小さくて聞き取りづらかったけれど、徹が私に何かをくれるだなんて珍しいことで、それが嬉しくて顔を綻ばせる。当の徹はといえば、未だに気まずそうな顔でいるわけだけれども。
「ありがとう、大事にするね」
私の言葉に漸くその表情を崩す。
「お、おう……。貰いものだけどな」
「それでも嬉しいよ」
再びお礼の言葉を口にすれば、もういいからと背中を向けられてしまう。
耳が少し赤いようだけど、もしかして風邪でもひいているのかな?
「徹、熱あるの? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だ! 気にすんな」
「そう? 耳まで真っ赤だけど」
「いや、もう、本当なんでもねえから! 俺、今日は誓太の手伝いするからじゃあな!」
言うが早いか、徹は脱兎のごとく――というのだっけ?――私の前から駆け出してしまった。あんなに走って大丈夫なのだろうか。それにしてもすっかり聞き流してしまったけれど、また今日も徹はサボるつもりなんだ。
内心ため息を吐きだしながらもう一度紙袋の中を窺う。そういえば結局この花の名前聞きそびれちゃったなあ……。

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