真夏日注意報


授業の合間の休み時間に少し席を立っただけだったのに、戻ってきたらカルマ君が思わず目を背けたくなるような格好で自分の席に着席していた。僕、知らないうちにとても疲れていたのかなぁと眉間に手をやって瞼を下ろす。なんでこんな真夏日にカルマ君が――しかも袖が手首まで届いていなかったからおそらく自分の物ではない――長袖のジャージを制服の上から無理矢理着ているのだ。そう、今のは見間違い。とりあえず気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返す。ゆっくり瞼を開ければいつもの黒い半袖カーディガンの制服姿の彼がいるに違いない。そう、あれは幻だ。疲れていた僕が見た幻覚だ。
果たして、視線の先に居たのはやっぱり不格好なジャージ姿のカルマ君だった。いい加減何も言わずに突っ立っているのも限界でついに僕はあまり触れたくない話題へ触れることになる。
「……カルマ君、どうしたのその格好」
「え? 何が?」
「今日真夏日だよ? なんでそんな暑い格好してるの」
「あ、これ? さっき暑いって連呼してたら茅野ちゃんが暑いって言うから暑くなるんだ、寒いって言ったら涼しくなるって言うから寒いって連呼したら心配した奥田さんが貸してくれたんだ! せっかく貸してくれたんだから着ないとね!」
奥田さんの件のところでとても嬉しそうな顔をしたけれど、それ何の解決にもなっていないどころか自ら暑さに飛び込んでいってるよね。カルマ君暑さでやられちゃったの? いつものクールな思考はどこへ行ってしまったの? 普段なら茅野のそんな迷言みたいな提案なんて即時棄却するだろうに。
言いたいことは山のようにあるけれど、言ってはいけない気がしたし、そもそも本人が幸せそうな顔なのだからそれを僕が壊してしまってはいけないのではないかと変な親切心が出てしまう。
「そうなんだ」
結局いろいろ考えた挙句それしか言えなくて目を伏せる。この場でこれ以上のことを言える人がいるならばすぐさま僕と変わってほしい。
「まぁ、無理しないでね」
「別に無理なんてしてないよ」
カルマ君はにこりと笑うけれど、顔面汗だくだよ。無理しない方がいいんじゃないの。
これ以上この場にいたら余計なことを言ってしまいそうなので心の内で頑張ってねとエールを送って自分の席へと戻った。

(本ト大丈夫かなぁ)

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