秘密の答え合わせ


帰りのホームルームが終わって、漸く今日も一日が終わったと大きく伸びをした直後だった。
「千葉、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
背後から声がかかりゆっくりと振り返ると、珍しくカルマが神妙な顔つきで頬杖をついている。こいつなりに何か困った事態なのだろうか。最初の言葉からずいぶんと間を置いてから本題へと入る。
「千葉はいつの間にか速水さんを見つめてたりとか、後姿を追いかけてたりとかしたことない?」
「なんでそんなこと……っておい。なんでそこで速水の名前が出てくるんだ」
「え? だって千葉、速水さんのこと好きでしょ」
一瞬で周りの人間の反応を窺う。皆それぞれ話したり帰りの準備をしていたりと、どうやら俺たちの話は誰にも聞かれていないようで安堵のため息をこぼす。
「そんな神経質にならなくても誰にも言ったりしないよ」
その顔は妙に楽しそうに歪んでいて信用ならないと直感が告げる。自分ではばれないように必死に隠してきたつもりだったのに、よりにもよってカルマに知られるとはな……。ああ、でもこいつ俺の後ろの席だからなんとなく挙動が変だったりするところを見られていたのかもしれない。そう考えるだけで穴があったら入りたい気持ちに駆られる。
「で、どうなの。無意識に速水さんのこと目で追っかけたりとかしたことないの」
「言わなきゃだめか?」
「言わなくてもいいけどその時は俺の口が何を言うかわからないよ」
「…………」
脅しもいいところだ。
そもそもこいつとこういうやり取りをして勝てるわけがない。さっさと白旗を振ってしまったほうがいいか。内心大きくため息をついて、慎重に言葉を探す。
「……ないことも、ない」
「ふーん、あるんだぁ。それは好きだと自覚した上での行動ってことだよね。じゃなきゃただのクラスメイトを目で追っかけたりなんかしないだろうし」
カルマの笑みが深くなる。面白いネタを見つけたみたいな顔をやめろ。
「というか、なんでそんなこと訊くんだ?」
「んー? ちょっと気になったから」
はぐらかす気全開だな。まぁ、元よりこいつが正直に言うはずがないのはわかっていたことだし、これ以上追及したところでボロを出すわけがないな。
でもこんなことを訊いてくるくらいだから、本人にもそういう行動をしている自覚があるのだろう。さしずめ俺はこいつの抱いている気持ちへの答え合わせにされたってところか。
それにしてもクラスで一、二を争う問題児が好きな子ねぇ。いったい誰なんだろうか。
ふと、カルマの視線が俺から外れて彷徨う。何処へ行くのかと気付かれないようにそれを追う。こういう時前髪が長くて助かる。視線は左から右へ移動して、止まったその先には黒い髪をおさげにした後姿。
あの後ろ姿は奥田さん……? 確かに修学旅行の時に気になる女子に奥田さんを挙げていたけれど、あの時は単なるいたずら道具を作ってくれる子だという認識だったはずなのに、いつの間にステージが上がったんだ?
「千葉」
「なんだ」
「誰かに言ったら俺の口も滑るからね」
バレてたか。
何も言わず肩を竦めて了承の意を表す。言うわけないだろ。俺だって弱みを握られたも同然なんだから。
「難易度めちゃくちゃ高いけど攻略し甲斐はあるよね」
小さく呟かれたその言葉に「そうだな」と答えて秘密の男子会議はお開きとなった。

(あの日からずっと君だけを追いかけてる)

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