愛、会い傘


厚く暗い雲が青空を少しずつ隠していく。それに気付いたのは午後の授業が終わる間際だった。
ポツリ、ポツリと。雨粒が段々大きくなっていって、遂には傘をささなければずぶ濡れになってしまうくらいの雨となった。

「参ったな…」

ため息を漏らして、そして手に持つ鞄の中から折りたたみ傘を取り出す。開いてそれを上に持ち上げて再びため息。
傘には大きな穴が開いていた。
きっと持ち運びか折りたたむ時にどこかに引っかけてしまっただろう。
迂闊だったと言うべきか。ちゃんと確認してから登校すればよかった。だけどそんな後悔も全て後の祭りということもわかっている。昇降口から校門までの距離を濡れずに行くことなんて不可能だ。

「携帯、の充電は切れていたのだったな……」

途方に暮れる。
御狐神くんを呼ぼうにもこれではどうしようもない。万事休す、か。
大きく深呼吸して、覚悟を決めたその時だった。

「凛々蝶さま、お迎えにあがりました」

まるでタイミングを見計らったかのように現れたのは噂をすればなんとやら。御狐神くんだった。
目を見開いて唖然としてしまう。まさかこんなに意志の疎通が図れていたとは。
一種のテレパシーではないかと疑ってしまう。

「鞄をお持ちします。凛々蝶さま、どうぞ」

そう言って僕の方へ傘を傾けてくる。そうなると必然的に彼は傘から半身出てしまうことになる。いくら僕を濡らさまいと思っていたとしてもこれでは此方の気分が良くない。

「御狐神くん、傘は真っ直ぐ持ってくれ。そのままでは君が濡れてしまうだろう」
「僕のことなどお気になさらないでください。凛々蝶さまが風邪をひかれては一大事です」
「それはこちらのセリフでもあるぞ!僕も君に風邪をひかれては困るからな」
「凛々蝶さま…!そんなお優しいお言葉を僕ごときに…」
「シ、SSがいないと僕としても困ると言えなくもないからな!」
「では、こうしましょう」

極めて優しく、それでいてしっかりとした力で、彼は僕の体を自分の方へと引き寄せる。二人が密着して傘に入るこの状況…もしや。

「相合い傘なら二人とも濡れません」

彼のサラリとした言葉と共に恥ずかしさがこみ上げてくる。他人とまともに接したことのない僕にとってみれば、相合い傘なんて未知の中の未知。知識の中でしか知り得ないことだ。
それを今日この場で実行することになろうとは。

「凛々蝶さま、大丈夫ですか?どこかお体の具合が優れないのですか?」
「な、何でもない!さっさと怪館に帰るぞ!」
「はい」

歩幅が合わず、なんとも歯がゆい歩みだったけれど。
それすらもなんだか嬉しくて、楽しかった。





(あ、ありがとうとでも言っておこうか!)


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実は前に書いた反ばらと同じ日っていうどうでもいい裏設定があったり。

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