みんなのためのたったひとりのぎせい


※愛子ちゃん宅でのバッドエンドねつ造です。
バッドエンドを知っている・ブラック愛子ちゃん大丈夫・微妙なグロ表現大丈夫という方はどうぞ













『モノログの死の予告から逃れるためには誰かを殺すしかない』
江原くんが私の死を阻止してくれたその次の日。
たまたまインターネットで検索していたら、どこかのウェブページにそんな一言が記されていたのを見つけてしまった。見た瞬間頭の中が真っ白になってしまったし、それ以降もその一文が頭を離れない。
死の予告は拡散してもらえれば助かるのではなかったの? 江原くんはそう言っていた。あの頭のいい江原くんが言うのだから間違いはないのだろうけれど、新たに出てきてしまった解決策を前に私の思考は完全に止まってしまった。
星の数よりもたくさんの情報が渦巻くインターネットの中で、情報の取捨選択は重要だ。嘘のような真もあるし、その逆もある。特にモノログ関係については情報が錯綜しているのが実情だ。そんな中で見つけた『モノログの死の予告から逃れるためには誰かを殺すしかない』という一言。
誰かが流したデマなのかもしれない。だけど真実である可能性も捨てきれない。
ちゃんとした答えがあるわけではないのだから最終的に何を信じるかは自分次第なのだけれど、たくさんの選択肢を与えられてしまうと迷うし惑うし真実は闇の中にあるような感覚になってしまう。
江原くんを信じられないわけではない。むしろ全面の信頼を置いたからこそ彼に解決策の模索を頼んだのだ。だから死の予告を拡散することでそれから逃れられるというのはたぶんとても信頼できる解決策なのだと思う。
「……どっちなんだろうなあ」
誰に聞かれるわけでもない独り言は部屋に溶けていく。
私が呟かれた期限まではまだ少し時間がある。江原くんが回避してくれたけれど、このまま不安を残したままでは毎日気が気でない。それならちゃんと明確な――と言えるかどうかはわからないけれど、とりあえず自分自身が納得できるような――結果が得られるまで調べてみようか……。やって後悔するよりもやらないで後悔する方がたぶんずっと苦しいから。
そうと決めたら私の行動は早かった。傍に置いてあった携帯電話のフリップを開き、インターネット検索のページを開く。検索候補にたくさん並ぶ単語はあの日不審な一言を見つけてから今日までの私の不安が詰まっているようで、顔をしかめるしかない。
モノログ、死の予告、回避方法、回避するには、拡散、誰かを殺す。
見ているだけで気分が悪くなるけれど、今はそんなこと気にしていられない。検索欄に単語を入れて、信憑性の高そうなページを順々に開いていく。
『モノログによって死の予告を受けた人間は誰かに拡散してもらえれば助かる』
『モノログによって死の予告を受けた人間は誰かを殺すことで助かる』
どちらもまあまあな人数の人が肯定しているし、否定もしている。そもそも死の予告自体を否定している人もいる。
やはりというか、わかっていたことだけれど情報が渦を巻いている。
同じ文言ばかり出てきて、もう頭が痛くなってきた、やめようかと思ったその時だった。
『私はモノログで死の予告を呟かれました。しかし、私はいまもこうして生きています』
電撃が走る思いだった。
ある女子高生の個人ブログのタイトルに目を奪われ、私はどんどんとページをスクロールしていく。
『十日前、私はモノログによって死の予告を呟かれました。最初は気にも留めていなかったのですが、期限が迫るうちにどんどんと不安が募り、怖くて学校にも行けず部屋から出られなくなりました。そんな時、親友であったA子が私のことを心配して様子を見に来てくれました。A子は大丈夫、心配いらないよ、こんなのデマだって! と私を励ましてくれ、私もその言葉に勇気づけられ徐々に学校に行けるようになりました。しかし、期限の日。私の携帯電話にモノログから一通の通知が届きました。簡潔にまとめると“あなたは五分後に死にます”という旨のものでした。その瞬間、忘れかけていた死の予告が思い起こされ、私はパニック状態になってしまいました。携帯を取り落とし、A子の制止も振り切って廊下を全力で走りました。その時は死にたくない一心で、どこへ行くともなくただただ安全な場所へ行きたかったのです。だから私は気付かなかった。後ろでA子が叫んでいるのを。必死に私を落ち着かせようと後を追ってきてくれているのを。階段を駆け下り、踊り場に出たところで彼女に手を掴まれ、驚いた私は思いきり振り払い、そして突き飛ばしてしまった。鈍い連続音が今でも耳に残っています。階下で頭から血を流して、私に助けを求めるA子。だけど私は何もできませんでした。ただただ、親友が死にゆくのを黙って見ていることしかできませんでした。私を絶望の淵から救ってくれた親友を見殺しに、いえ、殺してしまった。その後通りすがった教師によって警察と消防に連絡がいき、彼女は足を滑らせ誤って落ちてしまった、所謂事故死という判断がされました。本当は私が突き落としたのに。それから暫くして、教師から廊下に落ちていた私の携帯電話が返されました。画面を見れば、死の五分前の予告が表示されたままでした。そこで私は漸くある疑問にぶつかりました。どうして私は死んでいないのだろう、ということです。確かにモノログからの通知で私は死の予告をされていました。五分前の予告もちゃんと来たのに、どうして? ここで一つ考えたくもないですが仮説を思いつきました。もしかしてA子を突き落として死に追いやってしまったから私の死の予告がキャンセルされたのではないかと。非科学的なことを言っているし、信憑性はとても低いですが、あの日あの時はA子を突き落としてしまったということ以外何一つ変わらぬ生活を送っていました。モノログの死の予告自体が誰かのイタズラで、最初からそんなものはなかったというのは簡単ですが、私の携帯電話に未だに残る通知がそれは違うと言っている気がしてなりません。あんなにもリアリティ溢れる呟きがイタズラであるとは考えにくいのです。そしてそうでなければ、A子の死が本当に意味のないものになってしまいます。私が今こうして生きていられるのは全て彼女のおかげなのです。意図したわけでも望んだわけでもなかったでしょう。だけど私のせいで死んでしまった彼女の死には意味があったのだと思いたいのです。最後に、私のこの経験が私と同じ体験をしている方の助けになればいいとは思いません。自分の命のために他の誰かを犠牲にしていいということではありませんので、いち個人の体験として読んでいただければ幸いです。このようなことがもう二度とないことを祈ります。』
記事の下の方のコメント欄にはどれもこれも彼女のことを罵倒したり嘘だと吹聴したりなど、誰一人として信じようとはしなかったけれど、私にはそれが真実であるように思えたし、他人事とは思えなかった。
もしこれが真実しか書いてなかったとしたら、モノログによる死の予告は誰かを殺すことで回避できるということだ。……私の中で明確な答えが出た瞬間だった。
「誰かを……殺せば、私は、助かる」
彼女みたく階段から上手く突き落とせば事故死に見せかけられる。罪に問われることもない。
いつの間にか私の口は有明月を描いていた。
これで、この方法を用いれば私は助かる。残りの高校生活、ひいては今後の人生を楽しむことができるのだ。
でも、ここで問題が一つ。一体誰を犠牲にすべきだろうかということ。
家族? 確かに家族なら年中家にいるし、いつでもチャンスがあるだろうけれどその場合真っ先に疑われる対象ともなる。それに両親のどちらかを手にかけたとして、私の今後の人生に大きな問題が生じてきてしまう。
だったら友達? 友達なら家に招きやすいし、いざとなれば学校で決行という手段があるけれど、漸く仲が良くなってきた人をこの手にかけるというのは心苦しい。
人の命を奪おうとしているというのに、私は何てことを考えているのだろう。心苦しいなら、最初から江原くんを信用して、信頼していればいいのに。
……江原、くん? 頭の中で水色の髪の少年を思い浮かべる。
そういえば私が初めて声をかけた時、彼はすごく動揺していたし、嬉しそうにもしていたのを思い出す。もしかして、彼は私に好意を抱いているのではないか? 好意とはっきりしたものでなくても、私のために――私が頼んだからだけれども――死の予告について調べて対策方法を考えてくれた。それは、少しでも私に気があると思ってもいいのだろうか。私は特に何とも思ってはいないけれど、ここは彼の好意を存分に利用させてもらおうか。
私の心が決まった瞬間だった。
決行日。死の予告の当日、偶然両親が不在というまさに今日しかない状況。
気弱な風を装って江原くんを呼び止め、家に連れこむ。
停電は予想外の出来事だったけれど、今から私がすることを神様が目を瞑ってくれるのだろうと勝手に解釈して、この予想外の事態にも順応に対応する。第一、明るかったら決心が鈍ってしまいそうだった。
暗がりで、私と江原くん以外誰もいない状況で、ブレーカーを見に行くという千載一遇のチャンス。たぶん、今を逃したらこんなチャンス二度と来ない。
「いやああああぁっ!?なに!?なにっ!?」
「うぁあっ!?なに!?どうしたの!?」
大袈裟に声を上げれば、前を歩く江原くんは予想以上に驚いてこちらに振り返る。
「今そこに何かいた!!!」
震える手で階下を指差す。指の先には真っ暗闇が広がっている。
「ぼ、僕には何も見えなかったよ!?」
彼は困惑した表情を貼り付ける。それは本当に自分には何も見えていないと語っている。それはそうだ。本当は何もいない。私の目はただの真っ暗闇しか映していないのだから。パニックの絶頂の頃合いを見て、とどめのセリフを口にする。
「見えてないの!?江原くんには見えてないの!?」
「何が!?何が!?ねぇ!?何を見たの!?」
ごめんね、江原くん。ごめんね、ごめんね。
私のために、犠牲になって?
本当に軽くだった。軽く、彼の背を、両手で、押した。
ゴン、ガン、バタン、グシャッ。
鈍い音の後に、聞きたくない音が聞こえた。
大丈夫? 私、ちゃんとやれた?
そっと階下を見下ろす。暗くて良く見えないけれど、たぶん大丈夫だろう。木製の階段だし、当たり所の悪い音も聞こえた。心配ならこのまま放置しておけばいいだろう。警察が来たら適当に言い訳をしていれば事故として処理されるだろうし。
「あはっ、あはは!」
緊張の糸が切れたのか、私はその場にへたり込んだ。
呼吸が荒い。ガタガタと震える手を抑え込んで、冷静になるよう努める。
やった、やったんだ! これで……私は助かるんだ。
江原くんありがとう。ごめんね、さようなら。
あなたのこと、嫌いじゃなかったよ。


(特別好きでもなかったけどね)


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バッドエンドの愛子ちゃんがどうしてもブラックに見えてしまったので衝動書き

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