シャッターチャンス


「清水、笑って」

昼休み。
菅原の唐突な申し出に眉をひそめる。
何の脈絡もないし、きっかけもない。
意図があるのか、ないのか。それすらも分からない。

「なんで?」
「清水の笑ってる顔が見たいから?」

理由を問いただそうとしたら、何故かはぐらかされてしまった感じが否めない。
眉根をしかめると、ごめんごめんと白い歯を見せられる。

「いやさぁ、田中たちが今日は笑顔の日だって言ってるのを聞いたんだよ」
「それで?」
「それで清水の笑顔が見たいなって思っただけ」
「ふーん」

箸で卵焼きを掴みとって口に運ぶ。
笑顔の日、ねえ。
世の中にはいろいろな記念日があるものだなあ、なんてぼんやり考えながら甘い味付けのそれを呑みこむ。

「もっと言うなら清水の笑顔を待ち受けにしたいんだけど」
「できればそれはやめて」
「なんで?」
「写真撮るよって構えられるといつも顔が引きつっちゃうから」
「ふーん。清水にも苦手なものあるんだな」

言いながら菅原も手にしている焼きそばパンにかぶりつく。
ソースの甘じょっぱい匂いが漂ってくる。
ああ……今度焼きそばパンも食べてみたいな、なんて自分の弁当箱からからあげを摘み上げながら思う。
だけど昼時の購買はとても混むと聞くし、焼きそばパンは早めに行かなければ売り切れ必至のパンだとも聞いている。
それなのに目の前の彼は平然とそれを食している。
それがかなりの偉業、と言っていいのかわからないけれど。
少なくとも噂に聞く限り、焼きそばパンという存在はかなりの希少度であることは間違いないはずだ。
だから、素直に菅原の行動力に感心してしまう。
きっと終業のベルと同時に駆けだしているのだろう。
想像するとなんだか面白い。

「あ! その笑顔もらったべ!」

声と共にシャッター音。
しまった、と思う頃には時すでに遅し。
携帯電話を右手に構え、にっかりと笑う菅原。

「清水って笑うとすごい可愛いんだな」

とどめの一撃を貰ってしまって、恥ずかしくて暫く顔を伏せるしかできなかった。



(お願いだから待ち受けにしないで)

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