見間違いの赤


生活必需品の買い出しに出た。
と言っても深夜に開いている店なんてコンビニくらいしかない。
この辺は所謂住宅街と呼ばれる地域で、近隣に買い物をする店が殆どない。あってもコンビニか、精々小さな商店くらいのもの。商店なんて日が落ちればシャッターを下ろしてしまう。
本当なら昼間に行きたいところだけれど、日が出ている時間帯に外に出るのはとても目に毒だということを僕は知っている。
繁華街ほどではないけれど、ここにも小さな女の子はたくさんいる。流石住宅街といったところなのだろうか。しかも運がいいのか――いや悪いのか。ここらへんは特に若い夫婦が、家族が住んでいて所謂少女世代の子どもがたくさん其処彼処で遊んでいる。
一度昼間外に出て、自分で自分を制御できなくなってしまいそうなことになった。その時は事なきを得たけれど、それ以来僕は昼間の外出を控えざるを得なくなった。
大きく息を吸って空気を肺に取り込めば、鼻がツンと痛む。
暦の上では春だけれど、やはり深夜だからだろうか。それともこの土地だからだろうか。
冷たく、澄んだ空気がやけに心地よい。

「……?」

ふと、視線を上げた時だった。

「――え?」

視界の端に赤。
目を見開いて、そっとそちらへ首を向ける。
まさか、まさか。
彼女がここにいるはずがない。あの赤い少女が――いや、今は少女ではなくなっているけれど。
あの、哀川潤が――こんなとこにいるはずがない。
遠くに見えるそれを、ゆっくり目を凝らしてみる。
期待半分、諦め半分。
だから、その人物が鈍い赤色の髪色を風に靡かせていた時は正直、ああよかったと心底思った。
きっと遠くに見える彼女は、個性的な人物なのであろう。そうでなければあんなにも赤い髪はできないだろう。――まあ、哀川潤に比べればなんてことのない色だけれど。彼女の赤に匹敵する色を、僕は知らない。
でも、正直な気持ちを述べるのであれば――会いたかったけれど、会いたくなかった。
会ってしまったら、僕はこの気持ちを抑えきれないだろうから。
彼女に出会って、共闘して、あんなにも他人に対して鮮烈な思いを抱いたのは初めてだった。
だからこそ、僕は禁欲した。
いつか彼女に再び出会えるその日まで――少女のみを殺す零崎一賊唯一の存在となった。

「はあ……」

大きくため息を吐き出して、足を止めてゆっくりと顔を上げる。
そこに広がっていたのは真っ黒な絨毯に広がる宝石のような星々。
ああ――綺麗だ。
素直にそう思う。都会では決して見ることはできないであろうその光景を、僕はじっくりと鑑賞する。
人を殺すことが生き様で当たり前でそうやって今まで生きてきた。
だからだろうか。この場に彼女が居ないことが、殺し合いをできないことが、悲しい。こんなにも美しい星空の下で彼女と殺し合いができたらどんなに嬉しいことか。
それが世間一般的に言う普通の感情でないことは重々承知だ。
どこの世界にこんな美しい夜空の下で人殺しをできないことを嘆く人間がいるというのだ。
だけど仕方がないだろう? 僕は――僕たちはそうやって今まで生きてきたのだから。
視線を下ろして、止めていた足を再び動かし始める。
数十メートル先に目的地を見とめる。
真夜中だというのに煌々と道路を照らす、窓から漏れる蛍光灯の明かりがやけに眩しくて目を細めた。



(会いたい、相対)

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