不格好のプロポーズ
油断していたのかと訊かれれば、そうではないとはっきり言い切れるわけではなかった。
ここの所連戦続きで疲労が蓄積していたのは確かだったし、何より昨日の食事当番がフレンであったということがたぶん一番の要因なんだろうと思う。彼には悪いけれど、あれでは栄養を摂るどころの話ではない。むしろ真逆。食事に体力を使うなんて初めて知った。連戦、とはそのことも踏まえてのこと。
大方の敵を倒し終わって、漸く一息つくことができた。
大きくため息を吐き出すと目の前に翳りができて、はっと顔を上げる。
「大丈夫かい?ジュディス」
「え、ええ……、大丈夫よ」
ニコリと作り笑顔で返すと、彼の心配そうな顔が窺えた。
そんな顔をしてほしくなくて笑顔を向けたというのに。
「君は無理をしがちだからね」
「そんなことはないわよ」
「いいや、そんなことあるよ。現にほら……」
彼の視線の先には私の右腕が映っている。それを追いかけるように自分の右腕を視界に入れる。
いつの間に、という言葉がふさわしいのだろう。赤く染まった傷口から次から次へと血が流れ出していた。
知覚と同時に痛覚がやってきて、ズキリと痛む傷口に眉を寄せる。
油断していたと、はっきりと自覚する。
「傷口を見せて」
促されるように腕を差し出す。
どこから取り出してきたのか、彼の手には傷薬と包帯が握られていた。
てっきり治癒魔法で治すのかと思ったけど、彼は黙々と治療行為を行っていく。
それが少しおかしくて、微笑ましいと思った。
歪に巻かれた包帯を見つめると、少し照れたような顔をして、
「不格好ですまない……。本当なら治癒術を使いたいところなんだけど生憎今は疲労が重なって使えないんだ」
なんて言うものだから、なおさら私の頬は緩む(といっても外見上はあまり変わらないように取り繕ったけど)。
そんなこと気にしなくてもいいのに、と言いかけてやめる。
せっかく気にかけてくれたのだから、彼の厚意を無碍にしてしまってはいけない。
「ありがとう、充分よ」
「もう暫くしたらエステリーゼさまに治癒術をかけてもらうよう頼んでみるよ」
「いいわよ、これで」
「駄目だ、君は女性なんだから体に傷なんてつけたままにしたらいけない」
真剣な眼差しに思わず見蕩れてしまう。
ずっと闘いばかりをしてきた私を、女性として扱ってくれる彼の紳士な態度が素直に嬉しい。
「でも、せっかくあなたが治療してくれたんだもの。私はこのままでいいわ」
「駄目だ!」
「頑固ね……」
「何とでも。嫁入り前なんだからそういうところは気をつけなくちゃ駄目だ」
「そう……。じゃあ、もし相手が現れなかったら私のこともらってくれるかしら?」
「な……!?」
「ふふ、冗談よ」
あたふたと慌てふためいて、茹蛸を連想させるように顔を真っ赤に染める彼が、どうしようもなく面白くて、愛おしくて。
今にも解けてしまいそうな包帯をそっと、撫でた。
(本当は、冗談でもなかったりしてね……)
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紅葉さんに捧げさせていただきます! リクエストにお応えできているかは甚だ疑問が残るところではありますが、よろしければどうぞもらってやってください!