俺だけを見てください


「モルジアナ殿。今日も素敵ですよ……」
「おい、何やってんだよ」
「モルジアナ殿……」
「おい! 白龍!」

頭を叩かれ、顔を上げる。
そこにいたのは気味の悪いものを見るかのような顔のジュダル。
眉間に皺を寄せて何用かと問えば、大きなため息で返される。

「お前な……いい歳した男が何で木でできた人形を愛でてるんだよ。気持ち悪ぃよ」
「そんなの俺の勝手だろう。口出しするな」
「いいや、するね。四六時中もるじあなどの? なんて隣で囁かれている俺の身にもなってみろ。うんざりするわ。ていうか普通にお前のその行動は危ないだろ」
「危ない? 何がだ」
「それを自覚してないんだから本当お前大丈夫かよ」

再び大きなため息。
いったい何に対してのため息なのかもわからないまま、とりあえず馬鹿にされているような雰囲気を感じ取って一睨みする。
何なのだ。別にいいではないか。モルジアナ殿を愛でるくらい。
俺だって好き好んでこうして人形に向けて愛を囁いているわけではない。
煌帝国に戻ってきて以来、モルジアナ殿への想いは募るばかり。
だけどその想いを伝えるべき相手はいまここには居ない。ここに居ないのだから代わりのものにこの想いを伝えるしかないではないか。
持ち前の手先の器用さがこんなところで発揮されようとは思いもしなかったけれど……。
手の中にある人形に目を落とす。
我ながらよくできた人形である。よくできすぎて――リアルさを追求しすぎて、どうしても背徳感が否めない。

「モルジアナ殿……お会いしたいです」

小さく呟いた言葉は虚しく溶けていった。


(この想いは、どこへ向ければよいのだろう)

――俺だけを見て、俺だけを愛してください……なんて口が裂けても言えない。

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