煌帝国随一の破壊力を持つ兵器を作り出す義妹に全俺が恐れ慄いている


「さあ、どうぞ召し上がれ」

姉上が発した開戦の狼煙に視線を卓上へ向ける。
その目の前に広がるは凄惨な光景。
目を覆いたくなるような色と鼻を摘みたくなるような臭いに開戦前から俺のHPはほぼ0に近い。
これは料理という名の兵器だ……。
隣りに座る青舜はいつも通りの笑みを崩さず食卓の下から俺の足を踏みつけてくるし――きっと早く食べろという合図なのだろう――食卓を挟んで向かいに座る紅炎はこけしのような表情を貼り付けている始末。自分が招いた災厄もとい惨劇なのだから落とし前くらいはきっちりとつけるべきだと暗に睨んでみるものの、当の本人は未だこけし顔から戻る気配がない。
そもそも何故この男が俺と青舜と共に姉上の破壊兵器を目の前に硬直しているのか。
それは何の気なしにこの男が姉上の前で放った「エビチリが食べたい」という独り言が事の起こりだ。「では今度作ってきますね」と爽やかな笑みに隠された兵器をちゃんと知っておいてほしかったと今更ながらの恨み言。
紅炎は姉上の料理の腕を知らない。知らないからこその発言であっただろうし、知っていて言ったのであれば最早それは自殺行為に等しい。本当にその気があるのであればそんなの一人でやってくれと言いたいところだ。
ともあれ、食卓に呼ばれた俺と青舜は顔を引きつらせるしかなかったし、事の発端を作り出した男はこけし顔で卓上を見つめている。

「どうかしましたか? 早く食べないと覚めてしまいますよ」

ニコリと微笑む姉上と反比例して俺と青舜からはどんどんと笑顔が消えていく。
このままでは不審がられてしまう。意を決して箸を取る。
ちらりと隣に視線をやれば、むこうも覚悟を決めたのか下唇を若干噛みながら手元の箸を取り上げていた。
ああ、そういえばこの間もこんな光景を見た気がする。

「紅炎殿も、さあどうぞ」

姉上の言葉に漸く表情をいつもの無愛想のそれに戻した紅炎は、箸を手に取り一瞬の躊躇いの後目の前にある皿へ箸を伸ばす。
俺と青舜が固唾を呑んで見守る。
エビチリ――らしきものを掴み、持ち上げ、口へ運ぶ。
その動作がやけにスローぺースで、見ているこちらとしてはハラハラとせざるを得ない。
咀嚼中も表情を変えないものだから、二人してどう対処していいものか迷う。
そのまま無意味に時が過ぎ、そろそろ何か行動を起こさなければならないかと思った、その時だった――。

「白瑛の作ったエビチリは煌帝国随一だな」

重い口が遂に開かれた。
正確には“白瑛の作ったエビチリ(もどき)は煌帝国随一(の破壊力を持つ兵器)だな”だと推測されるけれど、下手なことを言わずかつ姉上の機嫌を損ねるような言葉を選ばなかった紅炎を少しだけ称賛したくなった。
それを聞いた姉上は歳に見合わぬ無邪気な笑みを作る。

「本当ですか?」
「ああ。本心だ」
「ありがとうございます」

姉上の幸せそうな顔なんて、久方ぶりだ。――が、しかしそれが紅炎によってもたらされたものだと思うと心中穏やかにはなれなかったけれど、俺たちの代わりにすべての皿を平らげさせられたその不遇で今日のところは勘弁しようと思った。



(白龍。今後一切白瑛を炊事場にあげるな)

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