命名:カナメ


「カナメですか?」

無表情な彼の口が動き、機械音でそう言葉を紡ぐ。
言葉自体は疑問を呈しているように聞こえるけれど、感情の込められていないそれはただの音読のようにも聞こえた。
彼の紅い瞳はただ真っ直ぐにわたしを見下ろしている。

「そう。あなたの名前は今日からカナメ。ACC:ソラネではなく、カナメです」
「了解しました」

間髪入れずの返答。
それはプログラミングされているからだろうけれど、本当にそう思ってくれているのだろうか、なんて機械相手に思うことではないのかもしれない。
そう、彼は造られた存在なのだから。
わたしとは根本的に違う存在。
壊れてしまえば代わりのものが用意されるし、無くなれば新しい機体がやってくる。
それが悲しいと、寂しいと思うのはおかしなことだろうか。
ずっと一緒にいてくれて、共に戦い、貢献し、こちらからの一方的な友情にも愛情にも似ているようで違う感情を抱くことは間違っていることなのだろうか。
記憶を失う前に一緒にいたアクセサリは覚えていないけれど、でもきっと今のわたしと同じように大切にしていたと思う。
記憶を失って最早前のわたしとは別人となってしまったけれど――そこだけは、信じていたい。

「あなたは――わたしの人生のカナメです。あなたがいなければわたしは今こうして生きていなかったと思います。これからもよろしくお願いしますね」

独り言のように言葉を紡げば、ほんの少しの間を置いて彼が「了解しました、ソラネ」と返してくれる。
それが嬉しくて、なんとなく恥ずかしくて顔を逸らすことでごまかした。



(あなたと共にこの世の中を生き抜いていく)

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