5か月遅れのハッピーバースデー


「菅原、清水さんの誕生日知ってる?」

何の脈絡もなく訊かれたからか、一瞬何を言われたのか見当がつかなかった。
首を傾げていると、もう一度同じ事を言われる羽目になった。

「だから! 清水さんの誕生日だよ! お前同じバレー部だろ? 知らないのかよ」
「俺、そんな清水とめちゃくちゃ仲がいいってわけじゃないからな」

言われて初めて気が付いたけれど、俺……清水の誕生日知らないべ。
家が近所にあることはわかっていたし、好きな食べ物は天むすだということはわかるけれど、誕生日……。言われてみれば訊いたことなかった気がする。
この前清水から誕生日のお祝いしてもらってすごく嬉しかったから俺も彼女の誕生日を祝いたいと思っているのに。そもそもの問題として俺が彼女の誕生日を把握していなかった。
内心頭を抱えながら、目の前にいるクラスメイトには「ごめん、わからん」とだけ返しておく。
何かきっかけがあって訊く機会があればいいけれど、そうそう誕生日を話題に取り上げることもない。
そういえば、どうして清水は俺の誕生日知ってたんだ?
誰かから訊いたのだろうか? 例えば大地とか旭?
どっちにしても何か理由をつけて訊いておかなければ、お祝いの品を渡しようがない。
どうしたもんか……。
と、丁度目の前を横切る人影。
あ、と思った瞬間にはその腕を掴んでいた。

「ちょ、大地待って!」
「うおっ、びっくりした! どうかしたのか?」

いきなり腕を掴まれて目を白黒させている大地。
若干の申し訳なさを感じながら、質問を呈す。

「清水の誕生日知ってるか?」
「清水? 1月6日だろ?」
「さすが大地!」
「いや、なんで褒められてるのか全然わからんが……」

頭の上にクエスチョンマークをたくさん浮かべながら、それでも律儀に返してくれる大地に感謝して解放する。
そうか、1月6日か……ってもう終わってるじゃんか!
しかも5か月も前に!
どうする? 来年の誕生日まで待つか?
でもそれじゃ遅すぎる気がする。だけど、5か月も前に終わってしまった誕生日を今更祝うっていうのもいささか変な話だべ……。
絶対変な顔をされそうだし、だからといって来年まで待っても忘れられていそうな気もする。
それなら今年の――もう5か月も前に終わってしまった誕生日を祝おうか。
祝うといってもちょっとしたプレゼントを渡すだけだけど。
よし! そうと決まれば善は急げだべ! 鞄の中にいつまでも入れてあった小さな包みを取り出して勢いよく席を立つ。
昼休みもあと20分といったところで、俺は二つ隣の教室へ駆け――ようとドアに手を掛けたところで偶然彼女の横顔が目に飛び込んでくる。
目の前を横切ったのだと思った瞬間には「待って!」と声をかけていた。

「清水!」

突然声をかけたからか、肩を震わせて恐る恐るといった感じで振り返る清水。
驚かせるつもりじゃなかったのに、なんだか心苦しい。

「あの、これ……」

そう言って手の中にある包みを彼女に差し出す。
不思議そうな顔をしながらも、彼女はそれを受け取ってくれる。

「この前、清水俺の誕生日祝ってくれたべ? すっげー嬉しかった! だから俺も清水の誕生日を祝いたかったんだけど、もう終わっちゃってたんだな。リアルタイムじゃなくてすまんけど、誕生日おめでとう」
「……ありがとう。わざわざいいのに」
「俺が祝いたかったんだべ」
「そう。……嬉しい。家族以外で祝ってくれたのは菅原だけだよ」

薄い笑みを作って、彼女は包みを大切に手の内にしまいこむ。

「その、大したものじゃないんだけど。でもこの前帰りがけに見かけて、綺麗で、これいいなって思ったやつだから!」
「……? うん」

首を傾げながらも、もう一度感謝の言葉を述べて清水は自らの目的地へ、俺は元いた席へ戻る。
肺の中の空気をすべて吐き出すように大きく深呼吸。
うわー……めちゃくちゃ緊張したべ。
でも、喜んでもらえたみたいだからよかった……。
さて、午後も授業頑張るべ!



(これ……ネックレス? それとも指輪?)


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ツイッターで日々お世話になっているとあるお方のお誕生日に恐れ多くも捧げさせていただきました

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