星空を眺めて


ギシ、ギシと船の揺れに合わせてハンモックが軋み、微動する。
それがなぜか眠気を誘うようで、白龍は重い瞼をゆっくりと閉ざしていく。
仰向けの体勢からつい、いつもの癖で右へ寝返りを打って慌てて左へ向き直る。
彼が何故そのような行動をとったのかと言えば、今右隣にはモルジアナが静かな寝息を立てて夢の中へ誘われているからである。
シンドリアでの日々の中で、白龍はモルジアナに恋をした。
それは日に日に強くなる想いで、こうしてハンモックとはいえ、隣で寝ることもままならないほどである。
小さくため息を吐き出して、そしてもう一度今度は意識的に首だけを右へ向ける。
行儀よく腹の上で手を組んで小さく上下する胸。
普段は結っている髪も下ろしているためか、印象がずっと違う。

「モルジアナ殿」

それは音として発せられたかどうかもわからないような、小さな呼びかけ。
当然白龍も起こそうとして声をかけたわけではない。
だが、期せずしてそれはモルジアナの耳に届いたようで、ゆっくりとその瞼が開かれる。

「白龍、さん? ……どうかしましたか?」

寝惚けた声でモルジアナはゆっくりと上体を起こす。
白龍は突然声をかけられたことに驚き体を起こすも、その際にバランスを崩しハンモックから転がり落ちてしまう。
大きな物音にモルジアナの目は完全に開いた。

「大丈夫ですか?」

白龍とは対照的に、きれいにハンモックから降り立ったモルジアナが右手を差し出して彼の体を引き起こす。
自分の情けなさに顔を赤らめながらも、白龍は小さく大丈夫ですと返答する。
今の物音で隣に寝るアリババとアラジンが起きてしまったのではないかと視線をめぐらすも、耳栓でもしているのではないかと疑うほど二人はいまだ夢の中であった。
睡眠への貪欲さとでも言うのだろうか。
少々の羨ましさを感じながら目の前で不思議そうな顔をしているモルジアナへと向き直る。

「起こしてしまいすみません……」
「大丈夫です。それよりも白龍さん。眠れないのですか?」
「あ……、えっと、はい」

あなたが隣に居るおかげで今日も寝不足です。
なんて、のど元まで出かかった言葉を必死の思いで呑みこんで頷くだけにとどまる。
ここで言えないところが白龍らしいといえばらしい。

「少し風に当たりましょうか」

モルジアナはそう言うと、白龍の手を引いて音を立てずに船室を出る。
白龍はただ、なされるがままモルジアナについていくしかない。
時々波で揺れる船内をものともせず、階段を昇り甲板へと出る。
先ほどまで真っ暗闇にいたためか、月明かりがやけに眩しい。

「今日は満月なんですね」

モルジアナのその言葉に白龍はそうですねと端的に返す。
満月よりもモルジアナの方へ視線が行ってしまい、慌てて視線を逸らす。
その様子を見て不審に思いながらも、モルジアナは闇を照らす月を眺める。
そういえばこうしてまじまじと満月を見るのは久しぶりかもしれない、なんて考えながら潮風に揺れる髪を手で抑える。
その仕草に白龍の視線は釘づけとなる。

「髪……」
「髪がどうかしましたか?」
「髪、いつも結んでるので下ろしていると印象がガラリと変わりますね」
「そうでしょか? 自分だとよくわからないですけど……白龍さんがそう言うのでしたらたぶんそうなのでしょうね」

小さく笑って、モルジアナは再び月へと視線を移す。
白龍もそれにつられて視線を戻すも、やはり隣のモルジアナが気になって仕方がない。
心臓が脈打つ音がうるさい。
頬は赤みを帯びたまま一向に引く気配がない。
ああ、これが恋というものなのだろうか。

「もう大丈夫ですか?」

突然の問いかけに一瞬何を問われたのか分からず呆ける白龍。
少し考えて、ああ――眠れそうかと尋ねられたことに思い至る。
どう答えたものかと少しばかり考えて、白龍は笑みを作る。

「たぶん、眠れると思います。モルジアナ殿にまでお付き合いいただきすみませんでした」
「大丈夫ですよ。私も少し風に当たりたいと思ってましたので。――それにこんなにきれいな月も見れました」

だから謝らないでください、とモルジアナは続けて月に背を向ける。

「冷えてきましたのでそろそろ戻りましょう」
「はい」

先を行くモルジアナを追って、白龍も船室へ戻る。
きっと今日も浅い眠りを繰り返すのだろうけれど、こうして共に過ごす時間を設けられただけで睡眠に勝るものを手に入れたのだと白龍は一人笑った。



(白龍おにいさん、目の下の隈ひどいね)

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