赤く滲んだ模様のように
「とがめ」
「なんだ、しちりん」
…………。
そのしちりん、ってのやめてくれないかなあ。
とがめはなんだか可愛げがあっていいではないかと言うけれど、おれ男なんだけど。
男に可愛さを求めてどうするんだよ。
「で、どうしたというのだ」
「あ、ああ。指、切れてるぞって言おうと思ったんだけど」
「なに!? うわぁ、本当だ。七花! 何故もっと早く言わなんだ! おかげで寝巻が血にまみれてしまったではないか」
「ああ、すまん」
心にもない謝り方をするな! と怒られてしまった。
普通に謝ったのに怒られるだなんてどうすりゃいいんだよ。
「この寝巻気にいっておったのに……」
ぶつくさと小言を言いながら水で濡らした布で血の付いた箇所を叩く。
鮮やかに赤く染まっていたところは次第にぼやけて、やがてはほとんど見えないくらいの薄さにまでなったはいいものの、やはり目を凝らせばそこは染みになってしまっていた。
「七花。今度からわたしが指先を切っておったらすぐさま言うのだぞ」
「いや、さっきも言おうとしたんだけどさ、その、しちりんって呼び方のせいで言う気無くしたっていうか」
「なんだ、わたしのせいだとでも言うのか!」
「まあ……。しちりんって呼び方やめてくれないか?」
「何故だ。愛嬌があってよいではないか」
「男に愛嬌を求めてどうするんだよ」
「まあそれもそうだが、そなたにはあだ名というものがないだろう? せっかく気を利かせてあだ名を作ってやったというのに」
別に作ってくれだなんて一言も言ってないって。
ため息を一つ吐き出せば、とがめも同じタイミングでため息を吐き出す。
たぶんおれと、とがめのため息の理由は違うけれど二人全く同じタイミングでため息をしたというのが妙に面白くて笑えば、つられてむこうも笑う。
「血は止まったのか?」
「まあ大方な。大して深い傷でもなかったし」
「そっか、よかった」
「何がよかっただ! わたしは全然よくない!」
それからとがめは小一時間ほど説教を始めてしまって、結局床に就いたのは子の刻を過ぎたころだった。
(眠い……)
(こら七花! まだ話は終わっていない!)