はっきりくっきり


「みちみゃ……」
「え?」

名前を呼ばれた気がして、隣にいる澤村を見れば、真っ赤な顔を手で覆い隠していた。
熱でもあるのかと尋ねれば、なんでもないと言うけれど、依然として顔の赤みは変わらない。

「本当に大丈夫? 保健室行く?」
「本当に大丈夫だから気にしないでくれ」

どこか必死さのある訴えに首を傾げつつも、本人が大丈夫と言うならそれ以上は追及しない。あまり言ってもおせっかいになってしまうだけだし。
暫く歩いていると、また声がかかる。

「み、ち、み、や、今日の4限の選択、先生が出張とかで自習らしいぞ」
「へえ、そうなんだ。ありがとう」

やけに名前をはっきりと発音するなぁ。
さっき名前を呼ばれた時とは大違いだ。……さっき?
そういえばさっきは確か……みちみゃって……? あれ?

「ねえ、澤村。さっきみちみゃって……」

言おうとしてやめる。
澤村が両手で自分の顔を隠しているのが見えたから。
ああ、そうか。それでさっき手で覆い隠していたんだ。
漸く澤村の不可思議な行動に合点がいく。
名前を噛んでしまって恥ずかしかったのか。
別に気にしてないし、聞き流していたんだけど、本人としてはそうはいかなかったらしく、

「道宮。さっきの忘れてくれ」

とまで言う始末。
言われなくても今の今まで気にも留めていなかったというのに。

「大丈夫、誰にも言わないよ」
「助かる……」

いつもはしっかり者の澤村だけど、こういうところで恥ずかしがったりするから心がほんわかするし、あたしだけが知る澤村の一面を垣間見ることができてなんだか嬉しい。
小さく笑えば、不思議そうな顔でこちらを見てくる澤村と目が合った。
何でもないよ、と返して次の授業が行われる教室に急ぐ。
自然と早まる足。
それは始業時間が迫っているというのもあるけれど、澤村と秘密を共有できたみたいで、少しだけ楽しかったからだというのもあるのかもしれなかった。



(みちみゃってなんだか鳴き声みたい)

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