手を振って


「いつかさ、一緒に旅でもしないか?」

唐突な言葉に目を丸くする。
直後にいいよ、と肯定の言葉を紡げば、今度はむこうが目を丸くする。わたしが即答するなんて思ってもみなかったのだろうか。

「ザックスと旅、してみたいなぁ」
「今度さ、ちょっと大きな任務があるんだよ。それ終わったらプチ旅でもしてみるか」
「いいね。何処に行こっか?」
「そうだなー…。エアリスは何処か行きたいところとかあるか?」
「うーん…」

悩む素振りをしてみれば、じゃあまた今度決めるか!なんてあっけらかんとした声が飛んできた。
そうだね、なんてわたしも笑って、彼の調子に合わせる。
ここで一回会話が切れて、暫しの沈黙。
互いの呼吸音だけが間を保たせているようだった。
居心地は悪くはない。
だけど、次に何を話せばいいのか言葉に詰まってしまう。
そんな空気を破ったのは彼の方からだった。

「じゃ、俺行くわ」
「うん、いってらっしゃい」

右手を振って、送り出す。
不意に呼び止めたい衝動に駆られた。でも、任務だというのだから邪魔をするわけにもいかない。
結局、姿が見えなくなるまでわたしはその場から動くことも出来ず、ただただ彼の消えた方向を見ているだけだった。




(どうか、無事で)

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