::6月



6月。
麦わらの一味は真冬の冬島へと停泊していた。
しんしんと雪が降り積もっていく。静かに。冷たく。でもきっと誰かのためにはあたたかく。降り積もっていく。


「よう、ルフィ。」


1センチほどの層になっていた真っ白なそれに、軽快な足跡をつけていく者がいた。

「・・・エース。」
「お前もようやく一つ大人か。おめでとさん。」

頻繁に訪れるようになってから、先月は姿を見なかったエースだが、ルフィが一つ大人になってからのエースも、前となんら変わりはなかった。
雪はこれからも降り続け、積もっていくというのに、エースの格好はいつも通り上半身裸で下も五分丈のズボンだ。これは、ルフィも同じことが言えるが。
「おう、サンキュ。」
エースは、ルフィが甲板に一人いつもの船首、特等席にいることに何も言わなかった。

他のクルーの場所も聞かなかった。
日数にすると約半月ほど姿を見せなかった間の話を淡々と、読めない表情で話すばかりで、ちろちろと粉雪がエースのテンガロンハットにかかっている。
話が一段落ついたとき、一瞬できた意味深な間で、ルフィが口を開いた。

「サンジをどうすんだ。」
開きかけた口をつぐんだエースが、口を真一文字に引き結び動きを止めた。
そして、うってかわってニヒルに唇をゆがめてみせると、船首にあぐらをかくルフィを見上げて言った。
「どうもしねえが?むしろおれがサンジにどうにかされちまったってとこだが。」
「ふざけんな。」
「ふざけてねえよ。」
間髪入れずエースの声が返る。
その表情は今度こそ眉間にわずかに皺を寄せ、気に入らねえ、といったそれだ。
エースの纏う張りつめた空気に、降りしきる雪がはらはらと不規則に乱れ吹いた。

すると、スタン、と軽い音を立ててルフィが甲板へ降り立った。
シャクン、と先ほどよりも幾分か積もった雪が音を立てる。
二人は、同じように自分の帽子を手のひらで押さえ、視線を絡ませた。
「サンジはおれのコックだ。」
くく、と笑いをこらえずエースが歯牙を見せて言った。
「船の、・・・・・・コックだろ?」
「おれのだ。」
先ほどのエースと同じようにルフィは間髪入れずエースの言葉を遮り、言い切った。
少なからず面食らったエースが瞠目する。
その真っ黒な瞳から見える赤黒い炎に、エースは心の中で口笛を吹く。

「・・・まあいいさ。」

エースがそう口にしたとき、それまでの張りつめた空気が解放された。

「出直す。サンジちゃんによろしくな。」

さっきまでの雰囲気とは一転、人のいい笑みを浮かべたエースは来た時と同様身軽に歩き船を降りる。
ルフィは、まだ痺れるような空気をわずかに纏い、エースの背中を見つめた。

あんなに降っていた雪はいつのまにか小降りになり、エースのつけた足跡が消えるにはまだ時間がかかりそうだった。




「サンジちゃんに会いたかったなあ。元気出ねえ〜・・・。」
ストライカーにかかった雪を、緩慢な動きで溶かしつつエースはつぶやいた。
ずっと途切れていた黒ひげの情報が偶然入ったことで、方々走り回っていたのだ。
ていうか、本来やるべきことはそっちなんだけど。と、エースは苦笑いを浮かべる。

「でもさあー、もうさ・・・どうしようもなく好きなんだよ。」

「・・・兄弟で取り合いも悪かねえ。」

くくく、と読めない表情で笑ったエースは、ようやくストライカーを動かしメリー号を離れようとした。
そのとき、小降りになった雪の結晶が一粒、エースの鼻頭へ落ちた。

頭の中で、雪が降りしきる中でサンジが笑いかけてくる映像が再生される。
ぽわぽわとした粉雪がサンジを引き立てて壮絶に綺麗だ。
「やっぱ、会ってくればよかったかな。」

まあ、それは今度のお楽しみか。
と、また一言呟いて、今度こそエースはその場を離れた。





to be continued. ⇒7月

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