::5月前編



「サーンジーぃ!」
「まだできねーぞー。」

勢いよくルフィの顔が飛び出した。
サンジはたいして驚くことなく、むい、とルフィの顔をどける。

「違うぞ!」
「なにがだ?」
忙しいんだけどな、と手元を強調しつつサンジの手は休まない。
そんなサンジの態度はいつものことなのか、多少の理不尽を感じるルフィだがこちらも気にせず言葉を継いだ。
「サンジに言っときたいことがあるんだ。」
「ああ?なんだよ。」

―――ピピ。

そのとき、軽快な電子音がキッチンに鳴り響いた。
一瞬体を強張らせたサンジが思い出したように電子音の元へと近づいてゆく。
「よーし、ちゃんと焼けてんなー。」
どうやらタイマーだったらしく、オーブンの中の肉の加減を確認し満足そうに再びオーブンのつまみを調節する。タイマーも再び5分後に鳴るようセットされた。
そのとき、話の途中で中断され、不満だ!といわんばかりのルフィが再びサンジの目の前に顔を突き出した。
「サンジ!なあーってば!」
サンジはだんだんと苛立ちながらルフィに向き直る。
最初は話を聞くつもりだったサンジも、しつこいルフィにつっけんどんな態度になってしまう。ドレッシングを作る手を少々乱暴に動かしながら返事をした。
「話ならあとで聞いてやるって!今は忙しいのわかんだろ?」
これは本当である。
今日はルフィの盛大な誕生日。
ルフィの希望で、「とにかくいっぱいの肉料理!」をサンジは作らねばならない。
もちろん作るのは肉料理だけではなく、前菜から何まで完璧に計算しつくされたフルコースなのだが、そこにルフィの希望を入れるということは、ルフィに取り分ける肉料理をフルコースとは別にとにかくいっぱい!ということなのだ。
「でも早く言っときたいんだって・・・、」
それでも食い下がるルフィにサンジがついに怒声をあげた。
「だから!おれはいまお前のための料理作るのに忙しいんだよ!さっきの肉だってあと3回は焼き加減を見てかなきゃなんねえんだ、大事な話だったら余計に!あとで聞くから、今は待ってろってば!」
自分のため、と言われてルフィはしぶしぶキッチンを出て行った。
その背中が寂しげに見えたサンジは、おい、とルフィに声をかけようとしたが、再び鳴り響いたタイマーの電子音に意識を持っていかれそれは叶わなかった。


「あら、ルフィじゃない。」

とぼとぼと甲板に出たルフィを待っていたのはジュース片手に本を読むナミだった。
サンジの素っ気ない態度でダメージを受けたルフィはぱたん、と甲板に倒れこむ。ナミはさほど気にしていない様子で、(めんどくさいとも思っていたかもしれない)しかし、ルフィから発せられるどんよりとしたオーラに見かねて声をかけた。
「なによ、どうかしたの?」
またつまみ食いでもしたんでしょ?と鼻で笑うナミにルフィは返事をしなかった。
いつもと様子の違うルフィにナミは目を丸くさせた。サンジ特製のオレンジジュースと読みかけの本をテーブルへ置き、ルフィへと近づく。
「何かあったの?ルフィ。」
ナミを動かしているのは100%好奇心であった。
何しろいつもアクシデントやハプニングに見舞われる麦わら一味であっても、船の上は退屈であふれているのだ。何かおもしろいことはないかといつも思案しているナミは、こんなおもしろそうな出来事を放って本の続きを読むことはしなかった。
「・・・・・・どうもしねえ。」
これはますますおかしい!
ナミは内心ほくそ笑みつつも、それをおくびにも出さずあくまで涼しげに、事実だけを聞き出そうと語りかけた。
「サンジくんに言えないことなんでしょ?なにかあるとアンタ真っ先にサンジくんに言いに行くものね。サンジくんに言えないなら、あとはわたしかロビンしか残ってないわよ?相談相手。」
ナミがそう言ったとき、緩慢な動きでルフィが起き上がった。
あぐらをかいて麦わら帽子のふちをいじくり回し、悩むようなしぐさを見せている。
「おれにもよくわかんねんだけどよお・・・。」
「なに?」
こんなはっきりしない態度をとるルフィを、ナミは見たことがない。
あるにはあるが、それはたいてい、というか全てルフィが盗み食いをしてそれをサンジに問い質されているときだった。
そんなナミの心中に気づくことなく、やはりはっきりせず考えあぐねた体でルフィは言った。
「サンジもぜんぜん分かってねえと思うんだ。」
「は?」
思わずナミが大口を開けて言葉にならない声をあげた。
「なんだっけ?ええと、あんたもよく分かってないのよね?」
「ああ。」
そこははっきり断言するルフィ。
「で、サンジくんも分かってないのね?」
「そうなんだ。」

(いや、そうなんだって、あたしがぜんぜん分かんないわよ!)
と心の中で叫ぶナミだが、意味が分からなさ過ぎて気になるのも事実なので続けて話を聞いてみることにした。

すぐにナミは後悔する。
そもそも常人にルフィ語は難解なのだ。





to be continued. ⇒5月後編

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