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 虹の始まりと終わりは、一体どうなってるんだろう?



「……って、考えたことない?」

 と、リィことリーリエがぽつりと口にした。リィが昼飯にと持ってきてくれたサンドイッチを頬張るのに夢中だった俺は、むぐむぐと口を動かしながらきょとんと瞬く。

「……何だよ? 急に」

 口の中のものをごっくんと飲み込んでから訊ねた。いつもながら旨かった。適度に塩胡椒の効いた蒸し鶏とキュウリのサンドイッチ。今のが最後の一切れだ。

 もう一切れ食いたいなあ……なんて思いながら、俺は目の前で黙ったままのリィを見た。いつもよりぼけーっとした表情で、窓の外を見上げている。

 リィの視線の先にあるのは、久しぶりの青空だ。数日続いた雨が上がって、まだ所々に散り散りになった雨雲が浮かんでる。でも、リィが見ているのはそれじゃない。てか、多分リィだけじゃないんだろうな。今、この街で空を見上げている人が見つめているもの。それは視界の端から端を横切っている虹だ。

 虹はいつでもどこでも好きなときに見られるようなものじゃない。だから、大抵の人はそれを見つけると「おっ!」と思うもんだろう。さっきまでは食い物に夢中だったけど、俺だって虹を見れば何となく上向きな気分になる。何かいいことあるかもな、とか思ったりする。だから虹を見上げていると何となく表情が和らいで、人によっては笑顔だって浮かぶだろう。それなのに、リィはそうじゃない。いつになくぼーっとして、どこか憂鬱そうなカオして。

「何かあったのかー?」

「別に」

 心配して訊ねてみても、返ってくるのは素っ気ない単語ひとつだけ。自分から話振っといて、その態度はないんじゃねーの? 俺はぎゅっと眉根を寄せた。だけどリィはそんなこと、気にも留めない。まるで俺が同じ部屋にいることすら忘れちまってるみたいに、窓辺で頬杖をついて、空を見て、――そして。

「……いいなあ」

 そう呟いたリィの声を聞いて、腑に落ちた。ああ、またリィのビョーキが始まったんだと。

 ――空に焦がれる、飛べない魔女のビョーキ。



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