綱を渡る 1
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 物心ついたとき、あたしは何故か白い部屋の中にいた。あたし以外に誰もいない、家具なんかの一切の調度品もない。天井も壁も床も、辺り一面ただただ白いだけの空間。

 どれほどの期間を、そこで過ごしていたのか。今でも、あたしには分からない。決して短い間ではなかった。そのことだけは分かっているけど。当時のあたしはどうして自分がそこにいたのか、何の疑問も抱いていなかった。繰り返される日々をただ漫然と過ごしていただけだった。

 そんなとき、彼が現れた。

 白、白、白――ただそれだけの空間に、ある日突然、それ以外の色がついた。

『何だお前、一人なのか』

 飄々とした、だけど優しげな青い双眸。まるで蒼天のような色合いのそれが、あたしがはじめて知った『白以外』の色。

 世界を創り出す、鮮やかな色。そのうちの、ひとつ。

『暇なら、一緒に来るか?』

 そう言って差し出された手。それを躊躇いなく取って、あたしは白い部屋を後にした。そして、そのときから蒼天の瞳の持ち主は、幼いあたしにとって文字通り『世界そのもの』になったのだ。



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