晴れたソラに さよならを 1
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 思い返すと、いつもそこには空があった。

 キミの笑顔の向こうには、いつだって晴れた空があったんだ。



「やっぱり、ここにいた」

 駆け足で階段を昇りきり、飛び出した屋上。そこに見つけた見慣れた後ろ姿に、わたしは呆れて声をかけた。

「おー、どうした?」

 フェンス越しの風景に見入っていた彼が、くるりと振り返る。式の間はきっちり閉めていたネクタイも、今はだらしなく緩められている。いつも通りの呑気な表情を半眼で眺めながら、わたしは非難めいた口調で言ってやった。

「『どうしたの』じゃないわよ。皆あんたのこと捜して、校内走り回ってんだからね」

「うわマジで?」

「嘘言ってどうすんのよ……。てか、ケータイ散々鳴らしたんだけど」

「ええ? ……あ」

 腕を組んで淡々と言ってやると、彼は驚いてポケットを探ってケータイを取り出した。そして画面を見て、うなだれる。

「式の前からサイレントにしっぱなしだった……」

「間抜け」

「間抜け言うなよ! うわー……何だよ、このメールと着信の数」

 だから『皆』が捜してるって言ったじゃない。

 口には出さず心の中で呟いて、わたしはこれ見よがしにため息をついた。すると彼はばつが悪そうに、頭をぽりぽりと掻く。

(まったく、もう)

 こうやって、ふらりと消えた彼を捜して此処に来るのははじめてのことじゃない。この三年間、何度も同じことを繰り返してきた。

 そして、これが最後のお迎えになるんだろう。

 そのことを判っているのか、いないのか。彼は相変わらず飄々とした雰囲気を漂わせて、わたしを見返していた。

 雰囲気はいつもと変わらない。今日がこの場所で会う最後の日であっても、ついさっき卒業式を終えたばかりであっても――彼の態度は変わらない。

 式の間のしんみりとした空気を引きずっているのは、わたしだけのようだ。それが何だか気恥ずかしくて、殊更つっけんどんに問いかけた。

「何してたのよ?」

「んー?」

 その問いに、彼はまた後ろの景色を振り返る。そしてわたしの目を見ることなく、静かに答えを告げた。

「見納め、かな」

 この街ともお別れだから。

 囁くように言われた言葉に、わたしは軽く目を瞠った。

 ――前言撤回。

 彼もそれなりに別れの空気に浸っていたらしい。

「なら、邪魔しちゃったわね」

 ぽつりとそう言えば、彼が笑う気配がした。背中を向けられていても、そのくらい判る。判るくらいに三年間、わたしは彼を見つめ続けていたから。

「邪魔になんかなんねぇよ。誰か捜しに来るなら、お前だと思ってたし」

 そうして向けられた笑顔はいつもより少しだけ、歪んで見えた。





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