綱を渡る 7
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「アリア、お前な……!」

「寝言は寝て言え、この変態!」

 非難の声を切り捨てて言い放ち、あたしはくるりと踵を返した。それから宿に向かって、一目散に走り出す。

「アリア!」

 呼び止める声は完全無視。絶対に追いつかれないように、あたしは全速力で走り続けた。そうしながら、自分に言い聞かせる。

 ラザレスはあたしの保護者。父親代わりで、兄貴分で、師匠。それ以上でも、それ以下でもないのだと。

 だって、ずるいじゃないか。あたしは彼しか知らないのに。あたしの世界は、彼の存在が中心なのに。そんな狭い世界の中だけで決められてしまうなんて、納得できない。

 そんな、刷り込みから始まるような恋なんて。

「……絶対、落ちてなんか、やらないんだから」

 噛み締めるように呟いて、あたしは左の頬に手を当てた。ラザレスが触れていた、そこはまだ熱い。自己主張する、だけど柔らかな熱。

 ラザレスが追ってくる様子もなく、あたしは一旦足を止めた。涼しい風が頬を撫でる。その心地よさに、暫くそこに立っていたけれど。

 いつまでたっても与えられた熱が冷める気配はなくて、あたしは大きくため息をついた。




  【終】





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