連鎖する僕ら 9
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 久しぶりに立ったマウンドから見た景色は、思ってたよりもずっと広く見えた。夏が終わる前までは毎日のように来ていたのに、誰もいないせいなのか、何だかよそよそしい感じがする。

 まっすぐに、ホームの方向を見た。その向こうには、いつも俺の女房役のタカの姿があった。マスク越しに鋭い眼差しでこっちを見て、サインをくれた。時には思いきりのいい、そして時には「絶対、敵に回したくない」と思うようないやらしい配球を次々に組み立てて。

 元々飽き性で堪え性のなかった俺は、あいつが相棒じゃなかったら、投手を続けていたか分からない。俺の投球は――部内ではいちばん速い球を投げられたとはいえ、ズバズバ三振を奪(と)れるほど勢いがあるわけじゃなかったから。コントロールのほうもそこそこだった俺はタカの配球があったからこそ、マトモな投手としてやってこれた。そう思ってる。

 普段のタカは言うことキツイし、ホント俺様だけど――野球に関してだけは、捕手として俺に尽くしてくれた。俺の球を、生かしてくれた。マウンドの上は一人きり。逃げる場所も、隠れる場所もない。他人より少しばかり根性が足りてない俺は、そこに望んで立っていたにもかかわらず、しんどくなって降りたくなったときもあった。そんなときに俺を引っ張ってくれたのが―― 一緒に乗り越えてくれたのが、タカだった。


 ――いや、タカだけじゃなかったな。


 すぐに、そう思い直した。俺が野球で頑張ってこれたのは、タカだけのおかげってじゃない。家族もそうだし、シニア時代の仲間もそうだ。そして勿論、今俺が立っているグラウンドで一緒に練習してきた野球部の連中も。その中のひとつでも欠けていたら――今、こんなふうに満足した気分でマウンドに立ってはいられなかっただろう。

 両足をしっかりと踏みしめて、空を仰いだ。早春の晴れ渡った空に、雲はひとつもない。いちばん馴染みのある夏の空より薄い、清々しい青色。

 ぐるりと首を回らせて、周りの景色を眺める。――と、カシャンとフェンスが鳴る音がした。ぱっとそちらを見やれば、そこには。

「間宮」

 よく見知った女の子が、静かな声で俺を呼ぶ。目が合ってから数度瞬いて、俺はにっこりと笑った。


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