連鎖する僕ら 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ その行為が何を意味するものなのか。 わたしだって、知らなかったわけじゃない。 それはいつもと同じ、彼と二人きりの帰り道での出来事だった。 不意に目の前が陰ったその瞬間、一体何が起こったのか。すぐに分からなくて、わたし――綾部美希(あやべ・みき)はしきりにまばたきを繰り返した。 徐々に近付いきて、視界いっぱいに広がるそれが現在お付き合いしている彼の――成瀬新(なるせ・あらた)の顔だということに気がついて、わたしは硬直した。反射的に目をつぶってしまう。今からされることを理解したからだ。 ――キスだ。 思った途端、顔がかあっと熱くなった。同時に、何でこんな展開になったんだっけ? と頭の中を疑問符が駆け巡る。今は学校からの、帰り道の途中で。いつも別れる公園の前で、ちょっと立ち話してて、内容は他愛もない話題で、それで――。 一瞬よぎった沈黙のあと、わたしと成瀬はこんな状況になっていた。 目を閉じてても、成瀬の顔が近づいてきてるのが分かる。感じる息づかいに、閉じた瞼に力がこもる。 びっくりするくらいゆっくり流れる時間に、気が遠くなりそうだった。頭がくらくらして、既に酸欠状態に陥っている。これがホントに触れてしまったら、わたしの身体はどうなっちゃうんだろう。 ――ホントに、触れたら。 (うわああああっ!) ようやく気づいた事の重大性に、わたしは内心で絶叫した。その瞬間、思わず目を開けてしまう。 開けた視界には、彼の顔がアップで迫っていた。 (――っ!) 唇が触れるか触れないか、ギリギリの距離でわたしは身を竦ませる。理由なんて分からない。身体が勝手に動いてた。わたしの顔は下を向いて――自然、成瀬の唇を避けることになる。 気配を察したんだろう。近づいていた成瀬の動きが止まった。わたしは慌てて顔を上げる。でも、そのときには既に彼はわたしから離れていた。そうして、わたしを見下ろしていた。 ひどくばつが悪そうな――だけど傷ついた表情で。 |