思うより、ずっと 1
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 今もまだ、返せる答えは見つからない。



 夏休みが終わった。

 連日の暑さはまだ続いているが、それでも日が落ちるのは徐々に早くなってきている。

「お疲れっしたー」

「おー」

 口々に挨拶して去っていく後輩たちに片手を上げて応えながら、俺も帰り支度を整える。――と。

「あ」

「どしたー?」

 バッグの中を確認していた手を止めた俺に、哲が声をかけてくる。哲と話していたマネジの藤原も訝しげな視線を向けてきた。

「数学のプリント、明日提出だよな」

「そうだけど」

 机の中に忘れてきた。――俺が苦い顔をして言うと、哲が目を丸くした。

「珍しいじゃん。タカが忘れ物なんて。待ってるから取ってこいよー」

 そう言って、哲はのほほんと笑った。俺は短く返事をして、部室を後にする。すると背後から、藤原に呼び止められた。

「ついでに初璃、呼んできてくんない?」

「あいつ、まだ居んの?」

 顔だけ後ろに向けて俺が訊ねると、藤原はこくんと頷いた。

「委員会の仕事があるからって。一緒に帰る約束してるの」

「……わかった」

 別に断る理由もない。俺は片手を上げて了承して、今度こそ校舎に向けて駆け出した。


*  *  *


 最終下校の時間まで、あと僅か。

 俺はバタバタと音をたてて廊下を走る。校内に殆んど人がいないので咎められることはない。

 教室にたどり着き、開けっ放しのドアに手をかけ、中を覗きこむ。

「瀬戸ー?」

 返事はなかった。

 だけど窓側の席で俯せていたのは、間違いなく瀬戸だった。

「……寝てるよ」

 俺は呆れて呟いた。

 瀬戸はいつも、長い黒髪を頭のてっぺん近くで団子にしてる。だから少し横向きになった寝顔がよく見えた。

 いつだったか、ずっと団子にしてると頭が痛いとぼやいてたことがある。その時俺は、じゃあ下ろせばいいじゃんと言ったんだっけ。そしたら、背が低いから下ろすとバランスが悪いんだって膨れてた。

 その時には――瀬戸は俺のことが好きだったんだろうか。

 二年になってコイツと同じクラスになって、出席番号の兼ね合いで席が近かったからよく話すようになった。人懐こくて元気なヤツ。それが、俺の中の瀬戸だった。だから瀬戸の言うような感情を持ってコイツと接していたかというと、否というしかないわけで。

 ただ俺が、未だに答えを返せない理由は。

「……カイロは、役にたったのか?」

 ぽつりと落とした問いに、瀬戸からの返事はない。

 瀬戸を知ったのは二年になってからだけど、俺はその前にコイツに会っている。そのときコイツは寒空の下で泣いていた。その現場に俺はタイミング悪く、踏み込んでしまったのだ。



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