カップケーキ戦争 5 しおりを挟むしおりから読む目次へ コトはまるく治まって。 また流れだす穏やか日々。 ――かと思いきや。 「はっくしょんっ」 まるで文字に表したみたいにはっきりしたクシャミをして、わたしはタオルで口元を押さえた。隣に座っていた冴香がイヤそうな顔で言う。 「……うつさないでよ」 「スミマセン」 相変わらず手厳しいお言葉に、わたしは舌を出して応戦した。だけど冴香はまったく気にした様子もなく、わたしとの間に置かれた手作りクッキーに手を伸ばす。その横顔を眺めながら、わたしはズズッと鼻をすすった。曽根と仲直りした日、あのまま学食で居眠りしてしまったわたしは見事に風邪をひいてしまい。熱こそ出なかったものの今現在、クシャミ鼻水鼻づまりの症状に見舞われているのだ。 ちなみに今日は木曜日。本来ならわたしも部活に勤しんでいるはずだったんだけど、顧問の出張で休みになったので野球部の見学に来ている。 そして今わたしは一塁側のベンチに冴香と隣り合って座って、鼻をグシュグシュといわせていた。部員のみんなはさっき休憩に入ったところで、それぞれ思い思いに散らばっている。――そこにバタバタとやって走ってきたのは。 「何コレ、どしたの?」 わたし達のもとに来たマミーがクッキーを指して訊ねてくる。もちろんそのまま何気なくつまんで、口に放り込むことも忘れない。 「もらったの」 「誰に?」 「ほら、こないだの一年生」 間髪入れない彼の問いにニヤニヤ笑いで答えたのは冴香だった。マミーはそれを聞いて、首を傾げる。 「何で瀬戸に?」 「お詫びとお礼なんだと」 次の問いに答えたのは、曽根。首にタオルを巻き付けて、コップ片手にわたしの後ろに立っていた。 マミーはその答えにも納得がいかなかったようで、最後はわたしに向けて訊ねてきた。 「お詫びは分かるんだけど、お礼って?」 「……例の先輩とうまくいったそうで」 ぼそぼそと答えるわたし。マミーは「へえ」と嬉しそうに頷く。 「よかったじゃん! でも、何で瀬戸にお礼なワケ?」 「初璃チャンのあの行動に感動して、勇気をもらったらしいわよー」 ケラケラと笑いながら冴香が言って、件のクッキーをつまんだ。マミーはあのときのことを思い出したんだろう。ブッと吹き出して、肩を震わせる。 うーっ! 「笑うなマミー!」 「いやムリだからっ」 憮然として抗議したわたしの言葉を、マミーはあっさり受け流した。そしてひとしきり笑ったあと、再びクッキーに手を伸ばす。 「それであのコが持ってきたんだ」 「そうですよーだ」 つんけんした態度で応じながら、わたしが思い出したのは昼休みの出来事だった。 * * * |