トクベツな一日 1
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 ――それは一年に一度やって来る、特別な一日。



 今日が『その日』だってことに気がついたのは、恥ずかしい話だけど、朝イチに母さんから電話がかかってきたときだった。

 お決まりのお祝いの言葉をもらって、ガラにもなく照れながら礼を言って。『今度はいつ帰ってくるんだ?』の問いには、曖昧な返事をして。次に電話を替わった弟からも、やたらデカイ声で祝ってもらった。

『これから人と会う約束があるから』と通話を切り上げようとしたら、弟に『あー! カノジョだろ? カノジョに祝ってもらうんだ! 兄ちゃん、いいなあ!』とかなり本気で羨ましがられた。どうやら弟も、お年頃ってやつらしい。前に実家に帰ったときは、野球のことしか話さなかったのにな。離れてる間に、色々と成長してるってことだろう。何だか不思議な気分だ。

 男のくせに、と言うと語弊があるが、俺よりは数段おしゃべりで愛想のいい弟との電話を切った頃には、待ち合わせの時間に間に合うかどうか、ぎりぎりの時刻になっていた。家族より頻繁に連絡を取ってる、けど久しぶりに会う相手を待たせないように、俺は慌てて身支度を整えた。それから家を出て、駆け足で駅に向かった。

 走ってる途中で親父から、駅で電車を待ってる間に大学の友人から、それぞれメールが届いた。ケータイの画面を見るたびに何だかこそばゆい気分になって、表情を引き締めるのが大変だった。

 ――誕生日、おめでとう。

 その言葉で気分が上昇する俺は、案外単純な生き物なのかもしれない。



*  *  *



「それじゃあ、何でわたしが『今日』を指定したのか、今朝まで気づいてなかったんだ?」

 緩やかな陽光が差し込むカフェのテラス席で、高校時代からのカノジョである瀬戸初璃は苦笑するようにそう言った。俺――曽根隆志は、自分でも子どもじみてると思いながらも不貞腐れた口調でぼやく。

「仕方ねえだろ。ここんとこ、色々立て込んでたんだからよ」

 野球と学校、それから頻度は少ないけどバイトもやってる身としては、毎日がフル稼働で忙しい。なので、個人的なことはつい後回しにして忘れがちになってしまう。瀬戸のならともかく、自分の誕生日なんて忘却の彼方だった。

「曽根はホント自分のことには無頓着だよね」

 いっそ清々しいくらいに、と言って瀬戸はまた緩く笑う。力の抜けた、柔らかい表情。昔と変わらないそれを視界に収めて、相変わらずだななんて思う。けど、瀬戸が髪を耳に掛ける仕種を見て、そうでもないかと思い直した。

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