カップケーキ戦争 4 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「考えたこともないでしょう?」 「え?」 突然トーンダウンしたわたしを、曽根が心配そうに見下ろしてきた。その表情に何ひとつ悪意は見当たらない。『何言ってんだコイツ』みたいな思いが感じられないから、何だか余計にせつなくなる。 責めて終わりにすればいい問題じゃないから。それだけのことだったら、こんなバカみたいに悩まなかった。 わたしは震えそうな声を必死で抑えつけて、彼に訊ねた。 「曽根は、わたしがどんなに曽根のこと好きか分かってないし、考えたこともないでしょう?」 知らないオンナノコと話してる姿を目にすることが、どれだけイヤかとか。自分の知らないところで好意を向けられてるらしいという話を聞くだけで、不安になる気持ちとか。 そうやって自分だけが振り回されて、ダメになっているような気がして。 「……いつ嫌われちゃうかと思ってびくびくしてるようなそんなキモチ、分かんないでしょっ?」 声に出すたび、言葉にするたび、思考がだんだんと冷えていくのを感じた。吐き出してしまった言葉の数々を思って――ホントにもうダメかもしれないって思えてきて、泣きたくなってくる。 だけど、それは卑怯だと思うから。わたしはグッとお腹に力を入れて、唇を噛んで我慢する。すると、急に頭の上に暖かい感触がした。それが何かなんて、わかりきってる。曽根だ。曽根の手だ。 これから何を言われるんだろう。そう思って、恐々と俯いてしまっていた顔を上げた。 そこには眉根を寄せて、口元にもう片方の手を当てて、何か堪えるような表情をした彼がいた。微かに頬が赤い。 ――あれ? この表情、昨日も見たような気がする。 「……曽根?」 奇妙な既視感を感じて、わたしは首を傾げた。曽根は口から手を外し、今度は額にあてがった。そして、『あー』とか『うー』とか唸り出す。 しばらくそうやって考えこんで、曽根は指と指の間からこちらを見た。その瞬間ギクリと固まったわたしに、静かな口調で彼は言った。 「ゴメン」 落とされた一言に、わたしは視線に力を込めた。彼は額の手を外して、わたしの視線を受けとめる。 |