カップケーキ戦争 2 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「仲直りは早いほうがいいっていうしね」 そして、ちらりとこちらを見やる。 「今日のところはわたしに頼まれたからとでも言って、無理矢理待ってたら? 実際いてもらったほうが、わたしも助かるしね」 「冴香さま……!」 「だからその目はやめんか」 有り難い申し出にわたしが瞳を輝かせると、冴香は嫌そうなカオする。そしてキュッと水道を止めたところで。 「藤原ー」 後ろのほうから声がした。わたしと冴香は同時に振り返る。 「成瀬(なるせ)」 「主将サン」 「あ、瀬戸サン」 一目瞭然で野球部と分かる練習着姿の男子が近づいてきた。彼の名前は成瀬新(なるせ・あらた)くん。野球部の主将で、隣のクラス(冴香とは逆の教室)の人だから顔見知りではある。 彼はわたしに向けて「ちわッス」と挨拶すると、冴香に訊ねた。 「生徒会に提出する申請書の控えってどこやった?」 「部室にファイルして置いてあるけど」 「悪いんだけど、会計に出してきてくんねー? 何かアッチが無くしたらしくてさ」 控えがあれば問題ないっていうから。その言葉に冴香は一瞬顔をしかめて、すぐに気を取り直して頷く。 「分かった。じゃ初璃、後でね!」 そう言ってポンとわたしの肩を叩いてから、冴香は部室に向かった。わたしは手を振って、それを見送る。 「行ってらっしゃーい」 白いジャージ姿の冴香はみるみるうちに、小さくなった。さて、と息をついて水道に向き直る。 そこにはスポーツドリンクでいっぱいのジャグが残されていた。 とりあえずグラウンドまで運ぼうと腕を伸ばすと、横から慌てたような声がした。 「あー! いいよ、俺が持ってくから!」 成瀬くんはそう言って、わたしを見てすまなそうに笑った。 「後でってことは、今日もまた手伝ってくれんだろ?」 藤原も強引だからなー、と彼は頭を掻いた。わたしは首を横に振って、それを否定する。 「冴香に言われたからじゃないよ。今日はわたしが頼んで」 「ああ。曽根?」 こくん、と肯定するわたし。成瀬くんは浮かべた笑いに、少しからかいの色を滲ませた。 「仲いいなー、相変わらず」 「あはは……」 今日は違うんですよーとか思いつつ、わたしは引きつった笑顔でごまかした。成瀬くんは特に気にした様子もなく、話を続ける。 |