カップケーキ戦争 1
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「フクザツだなあ……」

 胸に渦巻く思いをそのまま口に出す。冴香とマミーが苦笑いして、わたしを見ている。

 曽根が親しみやすくなったってことは、今まで彼を遠巻きに見ていただけの子達が近づきやすくなったってことで。曽根の良さを理解(わか)ってくれる人が増えること自体はいいことだし、その変化をもたらしたのが自分かもしれないっていうのを喜んだっていいんだろう。

 だけど、どんなにいい方向に考えたって、胸にわだかまるのはひとつの思い。

「面白く、ない」

 まるで自分の声じゃないみたいに、低く呟いた。

 彼の良さはわたしが知ってれば十分なのに、なんて思う自分がすごく嫌だ。そして周りの見る目に無頓着で、何も気づいていない曽根にも腹が立つ。

 机に置いたイチゴ牛乳に目をやって嘆息した。ピンク色の可愛らしさが今は無性に癪に触る。

 そんなわたしを見兼ねてか、冴香がゆっくりと口を開いた。

「どうあがいたって、それはヤキモチでしょ? 誰かを好きでいる限りは、折り合いつけてかなきゃならないキモチなんだから」

 それ自体が悪いものではないんだと、彼女は言ってくれる。

「だけど、その態度が悪かったと思うならアイツに謝んなさい。アイツだって言われなきゃ、わかんないでしょ?」

「……何て?」

 冴香の言葉に頷きながらも、わたしは弱々しく訊ねた。すると彼女は途端ににこやかな笑顔を作って、口を開く。

「『さっきはごめんね。ちょっとヤキモチ焼いちゃったのー、えへ』みたいな」

「冴香……キモイ」

「やかましい、あんたが訊いてきたんでしょうが」

「えー、俺はちょっとときめいたけど」

「そんな感想はいらん」

 それぞれの感想をぴしゃりとはねのける冴香に、わたしは思わず吹き出した。彼女が無理矢理、おどけてくれたのがわかったから。

 持つべきものは、やっぱり友達だなあ。


 しみじみとそんなことを思っていると、マミーもわたしを見て言ってくれる。

「カノジョにヤキモチ焼いてもらって嫌がる男なんていないから、大丈夫だって」

「ウザがられたりしないかなあ……」

 そう言うと、マミーが肩をすくめる。

「そりゃ、程度にもよるけどね。瀬戸はそういうコト、タカに言ったことないんでしょー。一回くらい言ってみ?」

「そう、だね」

 逃げないで、ちゃんとする。それが、わたしが曽根とつきあうときに自分で決めた約束事。だったら、ちゃんと話してみよう。

 ようやく気分が浮上して、いつもみたいに笑えるようになった。話してみる、とわたしが言うと二人もにっこり笑ってくれた。

 そして、場の空気が和んだところで冴香がやおら眉をひそめる。

「ところでさあ」

 そう言った彼女が示すのは教室の時計。それはもう、昼休みの終わりを告げようとしている。

「曽根、来ないんだけど」

 何やってんの? と首を傾げる。それを受けたマミーが「あーもしかして」と言って天井を仰いだ。

「職員室行ってから来るって言ってたから、……先生に捕まったかもね」

 ――ほら何せ。

「曽根クンてば、お人好しだから」

 マミーの科白に、わたしと冴香は乾いた笑いを浮かべ――そして、ため息をついた。

 教室に予鈴の音が、妙にむなしく響き渡った――。



  【続】

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