足りない、足りない 2
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 ここのところ、わたしもバイトやレポートで忙しかったから、久々に本屋さんとか雑貨屋さんとか……色々と見て回ることが出来て、なかなか有意義な半日だったと思う。でも結局、時間が余ってしまって。そんなときに、ふと浮かんだのが成瀬の顔だった。

 同じ地元に住んでいても、通う大学は違うわたし達。当然ながら、以前みたいに毎日会うことは出来なくなって。そりゃ、初璃ちゃんと曽根くんに比べたら全然恵まれてると思うけど。でも、ここ最近はお互いに忙しかった。それを乗り切って今日、やっと半月ぶりに会えると思ってたのに、結局ダメになってしまって。仕方ないのは分かっていても、残念に思う気持ちは否めない。

 会えなかった半月が長かったのか、短かったのか。それは人それぞれだと思うんだけど、わたしにとっては長かった。少なくとも、こうやって思い立って彼の家を訪ねてしまうくらいには、予定がつぶれてしまったことを悲しいと思ってる。

(……これは陣中見舞いなの!)

 手にしたケーキの箱を見ながら、わたしは自分に言い聞かせた。このケーキは、今頃一人で頑張ってる成瀬への差し入れだ。一人分にしては数が多いのは、彼の弟さんと妹さんにも行き渡るようにっていう……ただそれだけの理由。まかり間違っても、上がりこもうとは考えてない。玄関先で手渡して、『頑張ってね』って声かけて。ちょっと立ち話できれば、わたしだって元気になれるんだもん。そんなに悪い考えではないと思う。そしてそう思いながら立ち続けること、十数分。いい加減にしないと、そろそろホントにストーカーと間違われそうな気がしてきた。

 とにかく、もう買ってきちゃったんだ。渡すだけ渡そう! 邪魔になりそうなら、即行で帰ればいいんだし。もう一度自分自身に言い聞かせて、わたしはきっと視線を上げた。そして、手をインターホンに伸ばす。指先が触れて、押しかけた――そのとき。

 玄関のドアが、勢いよく開いた。

「あ」

「あ?」

 家の中から出てきたのは、成瀬ではなかった。でも面識はある。成瀬とよく似た、成瀬よりずっと幼い顔。これから部活に行くんだろうか。野球の練習着姿のその子は、わたしが誰かを察して、パッと表情を明るくさせた。

「美希さん、久しぶりー!」

「こ、こんにちは……」

 心構えが不十分だったわたしは少しばかり引きつった笑みを浮かべて、その子――成瀬の、年の離れた弟くんに小さく頭を下げた。

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