連鎖する僕ら 6
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 それがあっさり破綻してしまったのは、あの夜の出来事のせいだ。

 いつもと変わらない時間帯の、いつも通りの帰り道。普段通りに別れる前に、公園で他愛もない話をしていた。そのときだ。不意に訪れた沈黙に、俺は急に居心地の悪さを感じた。それを払いのけようと、何気なく隣に立つ綾部に目を向けたんだ。そして、それこそが大きなミスだった。

 青白い街灯に照らし出された綾部の横顔が、ひどく綺麗に見えた。普段は目にしたことのない陰影のついた顔が、大人っぽく見えて。だけど夜空に向けられた瞳だけは、子どもみたいに無邪気に煌めいていて――。

 気づいたときには止めようがなかった。俺はその表情に触れたくて、仕方なかった。胸に湧いたその思いに突き動かされるまま、綾部に顔を近づけた。

 綾部は一瞬、きょとんとして――何回もまばたきをして。それで悟ったんだろう。俺が何をしようとしているのか。すぐに両目を閉じた。だから、俺もそのまま顔を近づけた。けれど結局、触れ合うことはなかった。直前に、彼女が身を引いたからだ。

 姿勢を正して、再び綾部と目を合わせたとき――あいつは『しまった』とばかりに表情を歪めていた。懸命に何か言おうとしていたが、それは意味を成さない言葉ばかりで。

 困ったように、泣きそうに歪んだ表情だけが、彼女の気持ちをちゃんと伝えてくれた。嫌がったわけじゃないんだって。困惑した表情の何処にも、嫌悪を見つけることはなかったから。だから俺はいつも通り、笑うことが出来た。平静を装うことが出来た、と思う。

 悪いことをしたとは思ってない。れっきとした『彼氏彼女』の関係なんだ。変に罪悪感を持つのも、おかしな話だと思う。要はタイミングの問題なんだろう。確かにあのときは何の前振りもなかったから、綾部が驚いたのも理解できた。理解は、できた。だけど避けられた。拒まれたのも事実で――。



(――……へこむよなぁ)

 右手に持ったシャーペンをくるくる回しながら、俺――成瀬新は胸中でひとりごちた。冬休みもほど近い、休日の夕刻。ふと目をやった自室の窓の外は、既に暗くなっている。

 昼間は日当たりがよく暖房いらずのこの部屋も、さすがにこの時間帯は寒い。設定温度を上げるため、俺はリモコンを手に取った。

 部屋を暖める温風が強くなる。低く唸るモーター音が静かな部屋にやけに響いて聞こえて、俺は更に気分が下降するのを自覚した。思わず、顔をしかめる。


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