連鎖する僕ら 4
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(それに、なぁ……)

 たらたらと歩みを進めながら、思う。悩みはそれだけじゃない。今朝の藤原の表情を思い出して、俺はかぶりを振った。

 俺が「焦らなくてもいい」って、言ったときのあの表情。

(……かなりツボだったんだけど)

 何がツボだったって、あの無防備な態度だ。普段、決して愛想がいいとは言えない藤原が――俺の発言の八割方を切って捨ててる、あの藤原冴香が、俺の言葉に素直に頷いたんだ。迷子になった子どもみたいな、頼りない表情で。

 今まで散々、手厳しい扱い(場合によっては鉄拳制裁)を受けてきた身としては、かなりグッとくるものがある。これをかわいいと言わずして、何て言えばいいんだっての。

 そういう顔をいちばん近くで見れること――それはかなり嬉しい。だから、つい期待しちまうんだ。いい答えが返ってくるんじゃないかって。

 だって藤原のあの態度を見て、全く相手にされてないとは思えない。大体考える余地がないなら、あいつは最初の時点で断わってくれるだろう。中途半端なことはキライなタチだから。俺が「受験が終わったら考えて」って言ったことを踏まえたって、ダメならダメであいつはきっぱり言うはずだ。藤原の物事の優先順位は、清々しいまでにはっきりしてる。少し前までは部活、今は受験勉強。その邪魔にしかならないことは、容赦なく切り捨てる――そういうヤツだ。

 でもそれだって、別に性格が悪いとか根性が曲がってるとかってことじゃない。最近、気がついたんだけど――藤原は単に不器用なだけなんだ。曲がったことも、中途半端なことも嫌いで。でも、一つひとつのことに対していつも誠実であろうとしてる。そのくせ不器用なもんだから、選び取ったひとつにしか集中出来ない。

 そんな彼女が今、受験っていう難題を抱えながらも、俺に対してちゃんと向き合おうとしてくれてる。それって、スゲー幸せなことだと思うんだ。自分であいつを追い込んどいて、何言ってんだってハナシだけどさ。

 そうやって藤原が真剣に悩んでくれればくれるほど、俺は彼女の出す答えに期待したくなる。無防備な表情を見せてくれればくれるほど、どうしようもなく惹かれてしまう。

 だから――不安になるんだ。もしも「ごめんなさい」って言われたとき、俺は平気でいられるだろうか。藤原をこれ以上困らせないで、仲間としての距離を保てるだろうか――って。


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