さくら、ひらひら 6
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(緊張してやんの)

 そう思って目を細めた。さっきまで感じてた不安はどこへやら。今、俺の胸中を占めてるのは彼女へのちょっとした悪戯心で。

 そっと髪に手を触れた。すると予想通り、瀬戸はぴくりと震える。その反応が面白くて、俺はその手で彼女の頭を撫でた。そのまま、指で髪を梳く。

 何度も何度もそうしていると、次第に瀬戸の身体から力が抜けていくのが分かった。そっとこちらに凭れてきて、肩で大きく息をつく。キュッと遠慮がちにTシャツを握られて、俺はかなり嬉しくなった。

「瀬戸」

 呼び声に瀬戸がおそるおそる面を上げる。少し空間ができた。そして目が合って、ちょっと後悔した。

 だってさ。

「お前……なんつーカオしてんの」

「だって! イキナリで……」

 びっくりしたんだもん。

 そう小声で悔しそうに言う瀬戸は、大きな瞳を潤ませていて。

 暗さも手伝って少しはマシなんだろうけど、その頬が朱に染まっているのは明らかで。

 こんなカオ、至近距離で見るもんじゃない。

(〜〜〜〜っ)

 今まで何とかイシキしないでいられたってのに、今更ながら心臓が物凄い勢いで動きだした。触れてる場所から伝染するみたいに、身体中が熱を持つ。

(えーと、あれだ。ほら)

 腕を放せばいいんだ。そうすりゃ俺も瀬戸も、マトモに呼吸できるはずだ。だが俺の腕は動かない。

 そりゃそうだ。だって『放したい』とは思ってないし。

 だから人通りがないのをいいことに、俺は彼女を放さずにいた。すると。

「曽根」

「――っ! ……何?」

 前触れなく瀬戸が口を開き、再び俺に凭れかかってきた。今度は俺が身を強ばらせて、苦々しい声で返事をする。瀬戸は別に気にした様子もなく、からかうような眼差しをこちらに向けた。

「心臓、バクバク言ってるよ」

「うっせぇよ。ヒトのこと言えんのか、お前」

 憮然として返して、俺は顔を背けた。何とも情けない気分になって、片手で頭を掻く。すると何を思ったか、瀬戸が胸元に擦り寄ってきた。

「……何してんの」

 できるだけ動揺を表に出さないようにして訊ねる。まぁ、この距離でンな努力したって無駄だろうけどさ。


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