さくら、ひらひら 3 しおりを挟むしおりから読む目次へ 「そういえばさぁ」 「ん?」 「曽根くんに、何も言ってこないでよかったの?」 心配そうに向けられた問いに、心臓が跳ね上がった。少しだけ頬を引きつらせて、わたしは頷く。 「う、うん……」 いやホント言うと、ちょっと後悔してる。でも、胸にあるモヤモヤを彼に上手く言える自信もなくて。結局先に帰ることを伝えずに、ここまで来てしまったのだ。 ――美希ちゃんと出掛けるから、先に帰るね。 たったそれだけを言えばよかっただけなのに。それをフツーの顔で言えないくらい、何だか気分が沈んでしまっている。 別に怒ってるわけじゃないんだけど。……何ていうか、悲しいような悔しいような。胸の中でいろんな感情がないまぜになってて、自分でも持て余してる。 「大丈夫?」 思わずため息をついてしまったわたしに、美希ちゃんが眉根を寄せて訊ねてきた。その表情に申し訳ない気分になる。 「ごめんね」 ぽつんと落としたわたしの言葉に、美希ちゃんは首を横に振った。 「気にすることないよ! わたしだって、いっぱいお世話になってるんだもん。だから、話したくなったら言ってね?」 そう言って、にっこりと笑う美希ちゃん。その優しさに胸がじんわり暖かくなって、これ以上言うつもりのなかった弱音が口をついて出てしまった。 「わたし、心が狭いのかな」 野球してる曽根が好き。 それは最初から変わらない。だけど最近どうにも彼との距離が遠いような気がして、不安になる。 「進路が違うからさ。授業も一緒じゃなくて……だから、せめて放課後はって思ってたんだけど」 毎回、ことあるごとに早く帰るように言われると――ホントは迷惑してるんじゃないかって、勘ぐりたくなってくる。 「それはないと思うけど……」 美希ちゃんは、あの時の成瀬くんみたいなことを言ってくれるけど、やっぱりわたしの気は晴れない。 「春が来たら、また忙しくなるのは分かってたんだけどね……」 呟いて、わたしは桜に目を移した。川面に向かって伸びた枝から、時折はらはらと花弁が散っていくのが見える。 それはとても綺麗だけど。反面、不安を煽るような光景にも思えた。 曽根は今年、最後の夏を迎える。高校球児にとっての夏がどれくらい重要な意味を持つのか――素人にだって、簡単に想像がつく。 だから、今から頑張ってる。曽根だけじゃない。成瀬くんだってそうだし、普段は軽口ばかりのマミーだってそうだ。もちろん、彼らを支えるマネジの冴香だって。 だから絶対、邪魔したくない。自分でも持て余してしまうような、こんなあやふやな不安をぶつけて、曽根に煩わしい思いをさせたくはない。 |