だって冬ですから しおりを挟むしおりから読む目次へ 「ベテルギウスとリゲルだろ」 「ど、どっちが?」 サクサクと与えられた答え。だけどどっちがどっちの名前か分からなくて、わたしはもう一度問い返した。曽根は片手を出して、夜空を指しながら説明してくれる。 「三ツ星がオリオンのベルト。んで、上の脇の下に当たるのがベテルギウス。下の足に当たるのがリゲル」 ふむふむと頷きながら納得。とっても分かりやすい説明、ありがとう。 だけど。 「脇の下って、何かイヤだなあ」 せめて腕とか言ってくれれば。 わたしが眉を寄せて呟くと、曽根はひょいと肩を竦める。 「仕方ないだろ、ホントに『脇の下』って意味なんだから」 「うっそー」 思いきり疑いの眼差しを向けてやる。だけど彼はどこ吹く風といった感じで「マジで」とあっさり宣った。 「じゃあリゲルは?」 「『巨人の足』だったかな。……両方ともアラビア語なんだと」 淡々と答えを口にする曽根。わたしは『へえ』と感嘆の声をあげた。 「曽根、物知りだねえ」 「地学の先生が言ってたんだよ。俺も嘘だと思って調べたの」 そう言うと、彼はわたしに歩くように促した。二人で曽根の自転車がある駐輪場に向かう。 それにしたって『脇の下』かあ。昔の人のセンスって分かんない。それだけ聞くと、ロマンやムードの欠片もないや。 だけど、興味はそそられた。他のも色々意味があるんだろうな。わたしも調べてみようかな、なんて思っていたら。 「寒(さみ)ぃから早く行こうぜ」 曽根がそう言って、少し足を早めた。その後ろをわたしも早足でついていく。 駐輪場は部室棟から少し離れた場所にある。そこまでの道のりを二人、無言で歩いた。 別に気まずくも何ともない、自然に生まれた沈黙。ぼんやりとまた空を見上げて、はあっと息を吐いた。 (やっぱり寒いなあ……) 白く残って消えていくそれを見て、しみじみと思う。 コートのポケットの中にある両手は、すっかり冷えきっている。後であったかい飲み物でも買って暖をとらないと、ウチに着くまでつらいかもしんない。 そんなことを思いつつ、ふと曽根の方を見ると、彼はわたしの少し前を背中を丸めて歩いていた。相変わらず両手はポケットに突っ込んだままで。 |