6 執着
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 基礎がようやく形になってきた頃、師は言った。

「いいか、シーナ。よく聞けよ」

 大きな身体を屈めて、彼はゆっくりとした口調で告げる。

「お前は、まだ子どもだ。これからの鍛練次第で、まだまだ上達するだろう。だけどな? ひとつだけ、どうにもならん問題がある」

 そう言って、師は――グレイは少しばかり眉を寄せた。その困ったような表情に、幼い椎菜は首を傾げた。一体、何のことだろう? グレイに師事するようになってから、椎菜は毎日鍛練を欠かしたことはなかった。もともと身体を動かすのが好きな性分だったから、剣を習うことは自分に合っていると思っていた。もっともっと上手くなりたいと思っていたので――先程のグレイの言葉に、不安を覚えた。どうにもならない問題って何だろう? ことによっては、剣の道を諦めろと言われてしまうのだろうか。

 そんな思いが顔に出ていたのか。グレイは椎菜と目が合うと、ふと表情を緩めた。そして、大きな手のひらで椎菜の頭を撫でる。安心させるように、優しく、心地よい強さで。

「そんな顔することはないぞ」

 次に聞こえたのは、いつも通りの明るいグレイの声だった。

「問題っていうのはな、体格のことだ。まだまだ背は伸びるだろうが、お前は女だからな。伸びるにしても、限度ってもんがある。だが俺の体格は、この通りだ」

 そう言うとグレイは椎菜の頭から手を離し、背筋を伸ばした。急に高くに上がってしまった彼の顔を、椎菜は首を反らせて見上げる。

 そこには、大人と子どもという以上の身長差があった。

 グレイが仕方なさそうに肩を竦めてみせた。

「この体格差だ――いくら俺が基礎を教えたとしても、いざ実戦になったとき、お前は俺のようには剣を振るえないだろう。お前はちっこいから、小回りが利くぶん有利になることもあるだろうが、それでも力は見劣りする」

 今は子どもだから当然の話ではあるが、たとえどんな成長を遂げたとしても、椎菜がグレイのような体格になることは有り得ない。自分は女なのだから、成長するにも限度というものがあるだろう。肉体の成長に付随してくる筋力などは、やはり女性なりの伸びしろしか持たないはずだ。

 だから椎菜はグレイのように、剣を振るうことは出来ない。彼が言った『どうしようもないこと』の正体を理解して、椎菜は素直に頷いた。確かに、こればかりは仕方ない。だが、椎菜は反面で残念だとも思った。椎菜はグレイの剣が好きだったからだ。

 グレイは大柄で粗野な外見の男だった。だが、振るう剣はそれとは裏腹に、ひどく洗練されたものだった。師事する前に一度、こっそり覗き見たことがある。リウムの街にならず者が居合わせて、ちょっとした騒動を起こしたときのことだ。そのときグレイは向かってくる彼らを、容赦なく打ち捨てた。その外見から、さぞや力強い剣技を見せるのかと思ったのだが――実際は、それだけではなかった。



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