3 フォルトナの剣
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 それはまだ、人間と精霊と――そして精獣とが、親(ちか)しい存在であった時代のことだ。

 あるとき、傷ついた一匹の精獣が人間に助けられた。そして精獣は助けられた礼として、人間にあるものを与えた。それは、後の時代で“キクルス”と呼ばれる魔石で――それを手にした人間は、精霊から力を借り受けることができるようになった。

 ある者は炎を、ある者は水を。そして風や大地の力を得た人間は、ヒマエラと呼ばれるこの大陸の至るところに集落を作り、暮らすようになる。

 キクルスを得た人間たちは精霊に感謝を捧げた。精霊はそれを喜び、人間を慈しんだ。永劫に続くと思われた平穏な時代がそこに在り――そして、終わりを告げる日が来た。

 手にした力に狂わされた人間が戦を起こしたのだ。更なる力を得ようと、人々は争った。大地は血に濡れ、大気が憎しみと哀しみに震えた。そして世界中に生まれた負の感情の渦は、異界からあるものを呼び込んだ。

 それは瘴気を纏い、生きとし生けるものすべてを喰らう者。世界に滅びをもたらす者。人間は、それを“魔物”と呼んだ。

 魔物は人間も動物も精霊も、見境なく襲った。人間も精霊も、それに抗うため必死に戦った。だがその一方で、人同士の争いもまた絶えることはなかった。

 精霊たちは悲しんだ。――特に、人間にキクルスを与えた精獣の嘆きは深かった。自身が授けた力が争いを呼んだことを、愛しい人間の子を狂わせてしまったことを、嘆き、絶望した。そして絶望した精獣も自責の念から狂いだし、やがて滅びを呼び込む獣となった。

 その獣の名は、フォルトナ。誰より人を愛し、誰より人を慈しみ――けれど、その情の深さにより狂わされ、闇に堕ちた。哀しくも憐れな、神獣の成れの果て。







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