高校に入って、初めて担任から放課後に呼び出された。
 学年末テストを先週終えたばかりだ。若しかしたら、返却されたテストの成績が前回より少し落ちたお咎めかも知れない。
 部活が忙しいせいで本腰入れて勉強出来なかったしな。
 心配してくれているんだろうが、幾分今日は都合が悪い。
 何故なら、眠いからというふざけた理由で勝手に自主早退した馬鹿、もとい親友の家に、追試対策法を徹底的に叩き込みに行こうとしていたからだ。
 まぁ完全に俺の独断なのだけれど。
 追試は絶対頑張ると、あいつはむきになっていたが、集中力が人一倍続かない奴だということを長年の付き合いで知っている。
 そもそも高校だってギリギリの補欠合格だったんだ。このままでは進級も本気で危うい。
 だから一刻も早く切り上げて、あいつの家に直行したいのに、なかなか担任は解放してくれそうにない。
 普段はそんなにしつこくないのに、何で今日に限って。
 いけないと分かっていても、俺の意識は段々と担任の背後にある時計に向けられていた。
 しかし、担任が本当に指摘したかったことはどうやらテストのことでもなく、それどころか俺自身に対することでもなく、俺が全く予想もしていなかったことであった。

「君もあんなのに付きまとわれて、正直迷惑していたんだろう」
「は?」

 唐突に何を言い出すのか。否、途中全然話を聞いてなかったから半分内容が理解出来ないのだけど。

「あんな不良と関わっているから、今回のテストみたいなことに……」

 これを機に、来年から交友関係を改めてみたらどうだ? どうせ、あれは二年に上がれないしな、と嘲笑交じりに呟く担任。それを耳にして、先程から非難していた人物は俺がよく知る、親友に対してのことだったんだなと察した。
 親の次に一番身近な大人なんだろうが、俺は教師という存在を元々一切信用していない。
 生徒にとって一生の問題になり兼ねない物事を平気で適当言って述べるし、自分が正しいと判断したらそれを他者に無理矢理でも強要させる。かと言って首を横に振れば難癖理由をつけて即座に否定する。
 何故意見を求めようとするのかがわからない。どうせ最初から自分の考えしか通さないくせに。
 そんな日頃からあった不信感も、更に募らせていく。
 今まで外面だけは良かったが所詮、上辺だけの体裁。本性は自らの株を上げようと、躍起になってる最低教師だったようだ。
 他クラスの生徒なんて心底どうでもいいんだろう。自身に火の粉が振りかかってこなければ。
 あんなのだって? ふざけるな。あんたにあいつの何が分かるっていうんだ。
 確かにあいつは応用力もなく、覚えも悪いかも知れない。だからって全く努力してないという訳じゃない。
 迷惑しているだって? 何、勝手な解釈してるんだ。余計なお世話だ。
 こちとら、伊達に十数年、あいつの我が儘に振り回され放しじゃない。突き放すなんて今更のことなんだ。そう、今更のこと。

「先生」
「どうした?」
「数学の単位、まだ落とすの待ってくれませんか? あいつには追試に必ず挽回させますんで……お願いします」

 話を聞いていなかったのかと言いたげに担任は俺を一瞥し、顔を歪めた。
 態々意味の無い忠告をご丁寧にしてくれる大層自尊心が高そうな奴だ。大方、反感を買っただろう。
 けれど俺は間違った選択をしたつもりはない。
 あいつと一緒にいる時、迷惑と感じたことなんて一度もないのだから。
 世間体とか、この教師にとっては大事であろうが、俺にとってはどうでもいい。あいつと関わらないことで、簡単に担任の信用を得るなら。俺はそんな下らないもの一生要らない。

「お願いします」

 忠告を一切受け入れるつもりはない、そう意思表示するかのごとく、眼前の最低教師に頭を下げた。

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