※ナナバさん男性設定



調査兵団に入って約二週間、班分けや宿舎の引越し、調査兵の先輩方との親睦会や二週間後に行われる初めての壁外調査に向けての長距離索敵陣形の講義などを一通り済ませ、ここでの生活にもだいぶ慣れて落ち着いて来た頃。
訓練後の昼下がり、僕とナマエは調査兵団本部の食堂で昼食をとっていた。

「それでね、ナナバさんって本当にかっこいいんだよ」
「へ、へぇ…」
「すごく優しくていつも飄々としてて余裕たっぷりって感じで、とにかくかっこいいの!」

最近のナマエは同じ班に所属しているナナバさんという人に夢中らしい。
直接話したことはないけれど、昔から調査兵団にいて熟練の兵士だということは聞いた。
どこか中性的で線が細くて誰から見てもかっこいいのは分かるしナマエが夢中になるのも分かるけど、一応僕たちって付き合っているんじゃなかったっけ…と少し不安になる。

「……ナマエはナナバさんが好きなの?」
「うん、好きだよ」
「えっ」
「でも一番好きなのはアルミンだよ」
「そ、そう……」

モヤモヤとしていた気持ちも一番好きなんて台詞で少し和らいでしまうから、僕はナマエに関しては結構単純だなぁと自分自身にちょっと呆れてしまう。

「好きって言っても憧れとか、そういう括りの好きだからアルミンに対しての好きとは全然違うよ」
「そっか」

なんだか上手く丸め込まれたような気がするけれどナマエがそう言うんだからそうなんだろう。
ナマエはなかなか不器用だし正直だから、僕とお付き合いをしながら他の人を好きになるなんて器用な真似は出来ないと思う。
僕の前で他の男の人の話をされるのはあまり面白くはなかったし少し妬けてしまったけれど、ナマエも深くは考えずに話しているみたいだし僕もあまり気にしないようにすることにした。



********************



訓練兵を卒業し調査兵団に入ったからと言って訓練そのものがなくなるなんてことはなくて、むしろ憲兵団、駐屯兵団、調査兵団の三つの兵団のうち巨人のいる壁外に赴くことになる調査兵は訓練兵の時よりも厳しい訓練に明け暮れなければならなかった。
今日もハードな訓練のおかげで疲れ切ってへとへとになりながら宿舎に戻ってきた。
夕飯とお風呂は済ませたのであとはもう眠るだけだ。
重い足を引きずって自分の部屋に向かう途中、見慣れた背中が目に入った。
ここは男子の宿舎なのに何でナマエが、と思い声を掛けようとして、一瞬固まった。

「……え?」

ナマエの隣りには例のナナバさんがいて、なんだか楽しげに話しながら歩いている。
そんな光景を見てしまったら声を掛けることなんて出来なくなってしまって、遠ざかる二人の背中を何も出来ずに見送った。
向かった先は多分ナナバさんの部屋しか有り得ない。
悲しいのとか、寂しいのとか、怒りとか、どうしてだとか、まさかそんな、と信じられない、信じたくない気持ちとかいろんな黒い感情がぐるぐる自分の中で渦巻いてわけがわからなくなってしまいそうだった。
今の僕は傍から見れば相当情けない顔をしていると思う。
だけど行動に移すなんてことは出来ずに、走って自分の部屋へ入って乱暴に扉を閉めて毛布を被りぎゅ、と目を瞑った。
早く朝になればいい、ならないでほしいと矛盾した気持ちを抱きながら。



********************



あまり眠れなくて最悪な朝だった。
天気は清々しいくらい晴れ渡っているけれど気分は上がりっこない。
頭がぼーっとするし起きてからずっと何もやる気が出ない。
僕はナマエのことが本当に好きだったけれどナマエはそうじゃなかったのかな。
好きとは言ってくれたけれど、やっぱり情けない僕よりも頼りになってかっこいいナナバさんの方が良くなってしまったんだ。
なんだかもうからっぽだ。考えることも虚しい。
そして間が悪い僕は今は会いたくなかったナマエの姿を見つけてしまって咄嗟に踵を返そうとしたけれど、同じく僕を見つけたらしいナマエが声を掛けてきた。

「おはようアルミン」
「……おはよう」
「なんだか顔色が悪いよ?大丈夫?」
「……昨日、あんまり寝れなくて」
「くまが出てるよ。具合が悪いなら今日は休んだ方がいいんじゃ…」
「……ナマエは、」
「ん?」
「ナマエは昨日の夜どこにいたの?」

目を合わせないようにしていたけれど、意を決して顔を上げナマエを見た。
すると目を丸くして心底驚いたような表情のナマエと目が合う。
ああ、やっぱりそうなんだ。

「……ごめん。昨日の夜、ナマエがナナバさんと一緒に部屋に向かうのを見たんだ。はっきり言ってくれれば良かったのに、僕よりもナナバさんの方が良くなったんだって。ナマエが心変わりしたのなら僕は潔く身を引くよ。ナマエだって今の状況は辛いだろうし…。勿論僕もすごく辛いけど…」

潔く身を引くなんて嘘だ。
今だって未練たらたらだ。
だけどナマエには幸せになってほしいから、少し時間はかかっても忘れることが出来るように努力するつもりだ。
本当はそんな努力なんてしたくないしナマエを他の人に譲るなんて辛すぎるけれどこればっかりはいくら僕が何か言ったってどうにかなることじゃない。

「頼りない僕でごめん。楽しかったよ、ありがとう」
「ちょ、ちょっと待って!」

なんだか必死な表情をしたナマエが僕の両方の二の腕辺りを思いっきり掴んだ。
突然のその行動にに驚いてびくりと身体が揺れる。

「……アルミン、何か勘違いしてる…」
「……え?」

下を向き息をはぁ、と深く吐いてから、今度はすぅと吸い込んで顔をがばりと勢い良く上げたナマエは僕の目をじっと見つめながら口を開いた。

「私が昨日ナナバさんの部屋に行ったのは、索敵陣形のことを教えてもらいに行ってたの」
「……え?」
「もちろん私だけじゃないよ。同じ班のクリスタも後から来てね。壁外調査まであと二週間しかないのに私たちまだあんまり理解出来てない部分もあって、ちゃんと頭に叩き込んでおかないと壁外であっさり死ぬことになるかもしれないからってナナバさんが講師をしてくれて」
「……な、」

まったく考えてもいなかった予想外の展開にぽかんと口を開けてしばらく放心してしまった。
今の僕はだいぶ間抜けな顔をしていると思う。
つまり昨日見た出来事は僕の恥ずかしい早とちりだったってわけで、気が抜けて身体から力が抜けそうになるのを必死に堪えて踏ん張った。

「……ごめんねアルミン。アルミンがそこまで考えてたなんて私全然思ってなかった。眠れないぐらいそんなこと考えさせちゃってごめんなさい。アルミンの前であんまりナナバさんかっこいいとかナナバさん素敵とか言っちゃ駄目だよってクリスタに言われてたのに、私、深く考えないで話してた」
「…でも、勝手に勘違いしたのは僕だから…」
「ううん、私が悪いの。本当にごめんね」

眉を八の字に下げて目尻に涙を溜めたナマエが、僕の両手をぎゅっと握りながら大好きだよアルミン、なんて言うからなんだか僕の方も泣けてきてしまって、その手を握り返しながら僕もだよ、と返した。



不器用な二人は踊る

「君がアルミン?」

訓練の後、突然声を掛けられて振り返るとあのナナバさんが薄く微笑みながら立っていた。

「は、はい!」
「ごめんね。君達の仲を掻き乱すようなことをしてしまったみたいだ」

ナマエから聞いたのか、事の顛末を知っているみたいだ。

「い、いえ、むしろ下らないことに巻き込んでしまってすみません…」
「下らなくなんかないよ。ナマエも君も、私の可愛い後輩だからね」
「はぁ…」

確かに掴み所のない人なのかもしれない。
だけど嫌な感じはしなくて、むしろ初めて話したというのに不思議と落ち着くような穏やかな気分になる。
ナマエが騒ぐのも少しわかるような気がした。

「もうこういうすれ違いがないように、一つ教えておいてあげよう」
「なんですか?」
「ナマエはよく私に君の話を聞かせてくれるんだ。それはもう妬けてしまうぐらい楽しそうにね」
「えっ…!?」
「ふふ。本当に仲が良いんだね。羨ましいな」
「えっと…あ、あの、妬けるとか羨ましいって言うのは…」
「ほんの冗談だよ」

やっぱり捉え所のない人なのかもしれない。






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