対人格闘術の訓練中、足を捻って怪我をした。
受け身をちゃんと取れなかった私が悪いのに、ペアを組んでいたアルミンはそれはもうものすごく申し訳なさそうに眉を下げながら謝ってきて。
これぐらい大丈夫だから気にしないでと言ってもちゃんと医務室で処置をしなきゃ駄目だよと諭されて、教官にそのことを告げた後、お言葉に甘えてアルミンの手を借りながら医務室にやって来た。
だけど医務室には生憎誰もいなかったので、近くにあった椅子に私を座らせたアルミンはちょっと待ってて、と棚から包帯やら氷やらを取り出して持ってきた。

「本当にごめん。ナマエに怪我をさせてしまうなんて…」
「大丈夫だからほんと気にしないでいいのに。こんなのほっといても治るよ」
「それは駄目だよ。悪化するかもしれないしちゃんと手当てしておかないと」

真剣な表情で諭されてしまっては従うしかない。
現に大丈夫と強がってはみたものの足首が少しズキズキしていてちょっぴり痛い。

「じゃあ足を出してもらっていいかな」
「うん」

膝上まであるブーツを脱いで足付近に巻かれているベルトを外す。
今更だけど立体機動装置を装着するためとは言えこの装備は本当に面倒くさい。
慣れないうちはこのせいで朝、何回も遅刻しそうになった。
ズボンをふくらはぎ辺りまでたくし上げて患部を晒すと、少し赤くなっていた。

「やっぱり腫れてるね。ちょっと冷たいかもしれないけど我慢してて」

布に巻かれた氷をそっと足首に当てられて、突然感じたその冷たさにびっくりして飛び上がる。

「ひゃー冷たい!」
「ごめん。でもちゃんと冷やしておかないと後が辛いから」
「はぁい」

控え目にあてがわられている氷は最初こそ冷たかったものの慣れてくるとひんやりしていて気持ちいい。
ズキズキとした痛みもいくらか和らいだような感覚。
少し安心してふと自分の足から視線を外してアルミンの方を見ると、あちこちに視線を彷徨わせて妙に落ち着かない様子でそわそわしていることに気が付く。
その頬は心なしか少し赤いような気がする。

「アルミン?どうかした?」
「えっ!ど、どうもしないよ」
「なんだか何かを必死に見ないようにしてるって言うか…」
「気のせいじゃないかな…」
「……あ」
「な、何?」
「もしかして私のこのなかなかいつもは見ることが出来ない美脚にドキドキしてる?」
「び、美脚って…。自分で言うんだ…」

確かに綺麗だけど、と付け加えたアルミンの顔はさっきよりも赤くなっていた。
冗談で言ったつもりだったのにもしかして図星だったのだろうか。

「ナマエの足って筋肉があんまりついてないから細いし白いしで、その…女の子なんだなって思って」

自分の身体は筋肉がなかなかつきにくいらしい。
以前サシャからナマエの足はごぼうみたいですねと言われたことを思い出す。
さすがにそこまで細くはないけれど。
お前は食いもんのことばっかだな、ナマエの足まで食うなよとユミルにからかわれたサシャがお肉がついてなくて不味そうだし食べませんよ、と返していたっけ。
白いのは普段からズボンとブーツに覆われているから日に焼けないだけで。

「なんか冷静にそんなこと言われると恥ずかしい…」
「えっ、ご、ごめん」

お互い顔を赤くして下を向いているこの状況は端から見れば滑稽なことこの上ないだろうと思う。

「…なんて言うかアルミンも年頃の男の子なんだねぇ」
「それはまぁ…否定はしないよ」
「アルミンがそういうことに興味あるって意外だよ」
「どういう印象を持たれてるのかわからないけど僕だって普通の男だからね」
「じゃあえっちな本とか隠し持ってたりするの?」
「……ご想像にお任せするよ」

頬を赤くしたまま目を逸らしたアルミンの何とも言えない表情からはどちらなのか読み取ることは出来ない。
今度エレン辺りに聞いてみちゃおうか。

「そろそろ大丈夫かな」

氷を離したアルミンは私の足の、水に濡れている部分を丁寧に拭いてから包帯を取り出した。

「何から何まですみませんねぇ」
「そんな、元はと言えば僕のせいだから。じゃあ包帯を巻くから、きつかったり痛かったりしたら言ってね」
「うん」

器用にくるくると私の足に包帯を巻いて行くアルミンの手付きはなんだか慣れていて頼もしい。

「アルミン上手だね」
「そうかな。昔からやんちゃして怪我をしたエレンの手当てをしてきたからっていうのもあるのかも」
「エレンって昔からやんちゃだったんだ」
「それはもう」

子供の頃のエレンとアルミンの関係も今と大して変わらなかったんだろうな、と簡単に想像出来てしまって思わず笑みが零れる。

「でもやんちゃなだけじゃなくて、何度も僕を助けてくれた。それにミカサも。二人ともかっこよかったよ」
「そっか…」

懐かしむように優しい目をしながら話すアルミンの表情はとても穏やかで。
私の知らない幼なじみの絆みたいなものを垣間見た気がして少し羨ましくなった。

「よし、出来た。痛くない?」
「うん大丈夫。本当にありがとう」
「どういたしまして。一応後でちゃんと診てもらった方がいいよ」
「…ううん、大丈夫だよ」

せっかくアルミンに包帯を巻いてもらったのに、外すのはなんだか勿体ない気がした。
どうせお風呂に入る時に外さなきゃいけなくなるのはわかっているけれど。

「…アルミンに手当てしてもらえるならまた怪我してもいいかな」

小さな声で呟くと、一瞬びっくりしたように目を丸くしたアルミンは何言ってるのさ、と笑った。

「やんちゃは二人もいらないよ」
「えー。じゃあ今日のお礼にもしアルミンが怪我した時は私が手当てするね」
「それはなんだか不安だなぁ」
「ひどい!」

楽しそうにくすくす笑うアルミンを見ながら、わざと怪我をするなんて馬鹿な真似はもちろんしないけどもしまた怪我をしたらアルミンに手当てしてほしいなぁ、なんてこっそり思った。



冷たい氷と暖かい手
右足の包帯が宝物だなんて笑われるかな





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