※学パロ



ふあ、とあくびをしてからずっと同じ体勢をしていて凝った身体をほぐすようにうーんと伸びをする。
一限目の退屈な現代文が終わり、次の授業はなんだったかな、と黒板の横に貼ってある時間割りを見ると数学の文字。
数学は苦手だ。教科書を見てもよく分からないし、先生はあの泣く子も黙るリヴァイ先生で数学の時間だけはいつもみんな真面目に授業を受けている。
もし騒いだりしようものなら的確に狙いを定めたチョークがすごい勢いで飛んで来て額に刺さることになる。怖い。
教科書を出しておくか、と机の中をごそごそ探した。

「…あれ?」

更に奥までごそごそしながら探すけど、目的の物は出て来ない。

「ない……」

どうやらよりにもよって数学の教科書を家に忘れてきたみたい。
どうしよう。このままだと確実にリヴァイ先生に怒られる。
隣りの席で片肘をついてぼーっとしている女の子にちらりと視線をやってから、恐る恐る話し掛けてみる。

「ア、アニィ〜」
「…何」
「数学の教科書忘れちゃったみたいでさ…一緒に見せて…?」
「嫌だ」
「なんで!」
「あんたに見せて私まで怒られるのはごめんだから」
「うぅ……」

呆れたように冷たい視線を寄越して来たアニは、溜め息を吐いて面倒くさそうに言った。

「隣りのクラスから借りてくれば」
「そうする…」
「さっさと行かないと授業始まるよ」
「はぁい」

何だかんだでアニは冷たいように見えて結構面倒見が良くて優しい。
どうでもいい相手なら今みたいな気遣う台詞は言わないと思う。と勝手に思い込むことにしている。



自分の教室を出て隣りのクラスを覗いてみると、ちょうど入口の扉近くをコニーが通りがかった。

「あ、コニー」
「ん?おーナマエ。どうかしたか?」
「数学の教科書持ってる?」
「持ってない!」
「だよね〜」

コニーに聞いた私が馬鹿だった。ごめん。
と言うか教科書持ってなくて大丈夫なのかな?と余計な心配をしてしまう。もしかしたら授業中に時々この教室から聞こえてくる乾いた破裂音はコニーの額にチョークがぶつかって割れる音なのかもしれない。石頭だから刺さらないでチョークの方が割れるんだ多分。

「じゃあアルミン呼んでもらってもいい?」

やっぱりここは彼氏のアルミンに頼ろう。

「おう。おーいアルミン!ナマエが呼んでるぞー!」

コニーが声を上げると、教室の真ん中辺りの席でエレンと話していたアルミンが顔を上げた。
私の姿を確認したアルミンはエレンに何か一言告げた後、席を立ってこちらにやって来た。

「どうしたの?」
「アルミン、数学の教科書持ってる?」
「ごめん、ミカサも忘れたみたいでさっき貸しちゃったんだ」
「そうなんだ。うーんどうしよう」
「俺みたいに潔く諦めるんだな」
「チョークは絶対嫌だ…!」

がたがたと震えながら頭を抱えていたら、ちょうどジャンがトイレにでも行くのか、大きなあくびをしながら私たちのいる方に近付いて来た。

「あ!ジャーンくーん!」

いつもはそんな呼び方しないけど、なんとなく。
アルミンとコニーと隣りのクラスの私が教室のドアの所で突っ立っているのを見たジャンは怪訝そうな顔をした。

「あ?何だよ気色悪ぃ」
「数学の教科書持ってる?」
「忘れたのか。持ってるがタダで貸すわけにはいかねぇな」
「えー。何がお望み?」
「そうだな…購買のプリンパン」
「なっ…一日十個限定のあの幻のプリンパンを…だと…!?正気かジャン!」
「む、無理だよ…!あの芋洗い状態の購買で人混みを掻き分けてプリンパンを勝ち取るなんて私には出来ない!」
「別にオレはいいんだぞ?困るのはナマエだからな」
「ぐぬぬ…」
「どうするんだナマエ!プリンパン争奪戦を勝ち抜くのか!?それともチョークの餌食になるのか!?」
「ぐ…。アルミンどうしよう、こういう時こそ正しい選択をするアルミン先生の意見が聞きたい!」
「そんな大げさな…。とりあえず教科書は借りて、昼休みに購買に行ってみたらいいんじゃないかな…」
「それでもいい!?」
「まぁ期待はしないでおくか」
「ナマエ!健闘を祈る!」
「ありがとうコニー!」

ノリの良いみんなが大好きです。
ていうかノッてるのは私とコニーだけか。
寸劇が終わるとジャンが自分の席に戻って行って、教科書を持ってまた戻って来た。
何だかんだ言いながら貸してくれるから優しい。渡される時にぺし、と教科書で頭を叩かれたけど。

「ほら」
「ありがとう!」
「後で俺もジャンから借りるわ」
「いや何言ってんだよ。オレとお前は同じクラスだろうが」

コニーの冗談なのか本気なのかわからないボケに突っ込みを入れてジャンが溜め息をついた。あれは多分…本気だ。

「それにしてもジャンってこう見えてプリンが好きとか笑っちゃうよね」

にやにやしながら言ったらおでこに容赦ないデコピンを一発お見舞いされた。

「いたぁっ!」
「別にいいだろ」

まぁ全然構わないしむしろ顔に似合わずなんだか可愛いなと思うけど。
ちょっと顔を赤くして照れたように言ったジャンは、私の顔をじっと見つめてから片手で私の頬をおもむろにむに、と掴んだ。

「お前のほっぺたは大福みたいだな」
「なんだとー!?」

大福なんて失礼しちゃう!
確かに最近ちょっとだけ太ったかも…とは自分でも思ってたけど…。ダ、ダイエットしよう…。

「お前らって仲良いよなー」

何気なくといった風に呟いたコニーの一言にジャンと二人で固まる。
私の頬から手を離したジャンははぁーと深く溜め息を吐いて呆れたように首を振った。

「どこをどう見たらそうなるんだよ」
「そうだよやめてよコニー。私とジャンが仲良かったらエレンとジャンなんて大親友だよ」
「いやその例えはよくわかんねーけど。あ、チャイムだ」

ちょうどチャイムが鳴ったのでお喋りを中断した。
急いで教室に戻らなきゃ。
教科書は借りたのに遅刻して怒られるなんて展開はごめんだ。

「ジャン教科書ありがと。後で返しに来るから。アルミン、今日一緒に帰れる?」
「え、あ、うん」

それまで黙っていたアルミンに声を掛けたら、ハッとしてちょっと慌てた様子が何だかいつもと違って少し違和感を感じたけれど手を振ったら振り返してくれたので、特に気に留めずその場を後にした。



********************



「それでね、昼休みのチャイムが鳴ってすぐ購買に行ったんだけどもう既にすごい人でさ、プリンパンなんて夢のまた夢だったよ…」
「そうなんだ」

放課後、学校からの帰り道を購買での戦果を話しながらアルミンと二人で歩く。
結局プリンパンは買えなかったから、適当にメロンパンを買ってジャンに渡した。ああ見えて甘党だから甘い物なら何でも好きらしい。

「やっぱり駄目だったってジャンに言ったら最初からお前には期待してねえよだって。失礼しちゃうよ」
「…ジャンなりに気を使ったんじゃないかな。ただで貸すのも何となく照れ臭いから、無理難題をふっかけて結局はただで貸そうしてたんだと思うよ」
「えー…そうなのかな。確かにメロンパンはお前が食えって言われたけどダイエットするからって無理矢理渡して来ちゃった。でもそれなら最初から普通に貸してくれればいいのに」
「ジャンの性格上ナマエにはそれが出来ないんだよ。多分ね」

そうなのかな。つまり素直じゃないってことか。
アルミンって結構人の内面をよく見てるみたいで、時々こういう鋭い観察眼を発揮する。私には到底真似出来ないから素直に感心してしまう。

「……ナマエはさ」
「ん?」
「ナマエは、ジャンが好き?」
「…え!?」

アルミンにしては珍しく突拍子もない質問にびっくりして思わず大きな声を出してしまった。
幸い周りに私たちの他に歩いてる人はいない。

「それは、えーと、どういう…?」
「ナマエとジャンは仲が良いよね」
「え、えぇ〜?アルミンまでそれ言うの…」
「僕よりもジャンの方がいい?」
「そんなわけないよ…。ジャンとはよく話すけど、そういうのじゃないし…」
「ジャンの方はそうは思ってなかったら?」
「んん?」
「ただの友達だと思ってるのはナマエの方だけかもしれないよ」

静かな声色に反してその内容は衝撃的で、思わず目を見開いてアルミンを見たら深い海のような青い瞳が私をじっと見据えていた。
視線で縛られてるみたいに動けなくなって思わずごくりと喉を鳴らす。
妙に重苦しい雰囲気をどうにかしようと冗談ぽく軽く言葉を絞り出すけれど、動揺は隠し切れていないかもしれない。

「…そ、それはないよ〜あり得ないって。いつも喧嘩ばっかりしてるし」
「まぁ僕にも本当のところは分からないんだけどね」
「うん、アルミンの勘違いだと思う」
「どうかな」
「……なんか今日のアルミン、いつもと違う」

気のせいかもしれないけどなんとなく不機嫌というか、彼を取り巻くオーラが少し黒いような気がして、これはもしかして私とジャンの仲を心配したアルミンの嫉妬とかそういう感じなのだろうかと自惚れたことを考えてみる。

「…もしかして、やきもち?」
「そんな可愛いものじゃないかな」
「じゃあ…怒ってる?」

恐る恐る聞いてみたけどアルミンは肯定も否定もせずただいつものように微笑んだだけで、それがまたなんだか少しだけ不安になる。
他人の内面はよく見ている癖に自分自身の考えていることや思っていることはあまり表に出さないしなかなか読めないからちょっとだけずるいと思う時もある。
いつも私ばかり見透かされているみたいで、私だって彼の本音とか本当の気持ちを知りたいのに。

「怒ってるわけじゃなくて」

そんな察しの悪い私にアルミンはたまに分かりやすく本心を打ち明けてくれる時もあるのだけれど。

「僕の方も取られないように必死なんだよ。あげないけどね」
「えっ」
「ナマエは僕のでしょ?」

一瞬にして真っ赤になってしまった顔を隠すことも出来ずに、そんなことを言われてしまったらただはいそうです、おっしゃる通りですとしか言えるわけがない。
実にストレートに本心を曝け出したアルミンは一見にっこりと、だけど裏がありそうな笑顔で私を見るのだった。



独占欲にまみれた本性
もう隠さなくてもいいよね?





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